移り変わる介護現場~利用者に寄り添う介護とは

「介護」とひと口にいっても、そのあり方は時代とともに変わっていきます。昔は「当たり前」「このやり方が正しい」とされていたことであっても、現在ではまったく違うやり方になっている場合があります。

今回は、「言葉遣い」「QOL」の観点から介護分野の移り変わりを見ていき、これからの介護現場について考えていきましょう。

言葉遣いの変化と現状

十数年前に介護系の学校の授業では、すでに「患者」の呼び方について次のような話がされていました。「かつては『患者』という言い方をしていたが、現在は『患者さん』という呼び方を使うようになった。これからは『患者様』という呼び方に変化していくと思う。呼び方ひとつにしても、現在と昔とでは違っている」と。このように、「患者」の呼び方ひとつとっても、時代によって違いが見られます。「患者様」という呼び方に変化していくだろうという予測は当たり、現在では「様付け」からさらに先に進んで、「さん付け」の方が望ましいと考えている人が増えてきています。病院の一部では「様付け」から「さん付け」に切り替えたというところもあります。

いずれにせよ、呼び捨てにあたる言い方ではなく、患者さんに対して丁寧な言い回しが心がけられるようになったのは確かです。病院や介護現場というのは、ある意味では究極の接客業といえるのかもしれません。そのため「より利用者に寄り添える、より利用者にとって快適さを感じてもらえる呼びかけ」が常に模索されており、それが言葉遣いの変化としてあらわれているのです。

QOLの考え方と現在

「Quality Of Life」の略称である「QOL」は、医療や介護の現場に携わる人間ならば誰もが考えなければならないことです。この言葉は「人生の質」と訳されます。

QOLの考え方は1947年(1946年という説もあります)に端を発するといわれていますが、まだまだ研究途上の概念でもあります。特に1980~90年代に積極的に議論が交わされましたが、さまざまな課題があるため、現在でも研究は続いています。例えば、主観によるところも大きいデータをどう解釈するか、データを基にして新しい工夫ができるか、主観的な基準と統計学的な基準とをどう区別して扱うべきかなどについては、現在も数多くの研究者が頭を悩ませている課題です。

しかし、もっとも大切なのは、介護に携わる人間一人ひとりの心持ちであることに変わりはありません。介護に携わる人間としては、常に「自分が接しているこの人にとって、より良き人生とはどのようなものなのだろうか」と考える姿勢が求められています。

これからの介護の目標は

「呼び方」の問題や「QOL」について考えると、現在の介護の現場において重要なことは、単純な「機能の回復」を目指すだけでなく、「その人がその人らしい人生を生きていけること」「人生を楽しみながら生きていけること」を目的とするべきだということがわかります。

そのための方法として、介護現場ではすでにさまざまな方法が模索され、試されています。

「小さなことでも自分自身で選べるようにすること」もそのうちのひとつです。

「毎日の選択」が長生きや生きがいにつながるのかどうかということを調べた有名な研究があります。アメリカのランガーとロウディンという心理学者が1976年に報告した研究であり、高齢者施設にいる100人の高齢者を対象として行いました。「どんな映画を見たいか」などを高齢者自身に選ばせるグループと、「今日はこの映画を見ます」と施設が決めて上映したグループに分けて、1年後の心の動きをみたものです。

その結果、「自分で選ぶことができた」グループでは高齢者の90%以上に幸福感や積極性の上昇がみられたことがわかりました。それに対して、「自分で選ぶことができなかった」グループの高齢者では幸福感や積極性の上昇が20%程度にとどまっていました。「自分で選べないこと」が、幸福感や積極性を大きく阻害していることがわかったのです。

このように、毎日のちょっとした取り組みでもQOLは向上する可能性があります。自分ひとりで考えるだけではなく、介護スタッフ同士で新しい案を出し合うとよいでしょう。また、新しく出された報告などの情報を共有することも大切です。これこそが、これからの介護現場に求められるあり方だといえるでしょう。

「生きる喜び」に着目した介護を

移り変わっていく介護の現場においては、「昔はどうだったのか」を知ることと同時に、「自分自身がどんな介護士になりたいのか」「どんな職場を作りたいのか」ということを考えることも大切です。「利用者さんにとって本当に心地よい場所」を目指して、いろいろなことに取り組んでいきましょう。

介護の業務改善事例については、こちらでも紹介しています。
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参考:

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