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常勤換算とは?178万円の年収の壁を踏まえた常勤換算の計算方法と注意点
2026年の税制改正により、いわゆる「年収の壁」は178万円へと引き上げられました。これまで103万円や106万円を意識して勤務時間を調整していたパートタイム職員の働き方に変化が生じると考えられます。一方、スタッフを配置する側となる介護施設や福祉施設には、利用者に適切なサービスを行えるよう「常勤換算」という計算方法で人員配置の基準が定められています。
スタッフの働き方に変化が起こることで、この「常勤換算」に関する影響があるのでしょうか。この記事では、常勤換算の基本的な考え方や計算方法に加え、年収の壁の見直しが介護現場の人員配置やシフト設計にどのような影響を与えるのかを解説します。
常勤換算とは?
介護施設の従業員数は、介護保険法で定められた基準を満たしていなければなりません。しかし、個々の勤務形態や勤務時間はさまざまで、フルタイムで働く人もいれば、パートタイムなど限定された時間だけ働く人もいて、単純に施設の従業員数だけで基準を満たしているかどうかを判断できません。
そこで、施設が法令で定められた基準を満たしているかどうかを客観的に評価するために使われるのが、全従業員を「フルタイムの人が働いている人数」として換算する常勤換算です。
ここでいう常勤とは、従業員の実際に働いている時間がその事業所のフルタイム労働時間に達している場合を指すため、雇用契約上でフルタイム労働となっていれば、正規(正社員)、非正規(契約社員・アルバイトなど)の区分を問わず常勤として計算します。例えば、その事業所における1週間当たりの所定労働時間が合計40時間となっている場合であれば、週30時間働く正社員を「非常勤」、週40時間働く契約社員を「常勤」としてカウントします。その事業所の常勤時間が週32時間を下回る場合には、週32時間を基準の時間とします。
ただし、育児・介護休業法による時短勤務制度を利用する職員については、次の条件をすべて満たしている場合に限り、常勤として換算できます。
- 短時間勤務に従事している時間が週30時間を下回らない
- 法人の就業規則に短時間勤務に関わる勤務時間が明記されている
基本的に、介護職員の常勤換算では専従として勤務している介護職員の勤務時間数を合算して計算します。
専従とは、介護士や看護師など一定の業務のみに従事するスタッフであって、他の業務を行っていたり他の事業所に勤務していないという意味です。他の業務を兼任しているスタッフや他の事業所でも働くスタッフは専従ではなく、「兼務職員」と判断されます。 ただし常勤換算においてはその事業所で介護スタッフとしてのみ従事し、他の業務を行っていない時間であれば兼務職員の勤務時間数も算入することができます。
事業所ごとの人員配置基準を理解しよう
介護施設において適切なサービスを提供するために施設の種類や規模ごとにスタッフの最低必要人数を定めたものが「人員配置基準」です。介護保険法で決められている人員配置基準は、事業所の種類によって異なります。
では、事業所の種類ごとに介護職員の人員配置基準と計算方法を見てみましょう。
訪問介護事業所の介護職員人員配置基準
訪問介護事業所の訪問介護員は、規定の資格を持つ者が常勤換算2.5人以上必要です。
※サービス提供責任者を含む
【常勤換算の対象となる資格】
- 介護福祉士
- 介護職員実務者研修修了者
- 介護職員初任者研修修了者
- 旧介護職員基礎研修修了者
- 旧訪問介護員養成研修(ホームヘルパー)1級および2級課程修了者
- 看護師・准看護師・保健師
- 生活援助従事者研修修了者(※生活援助が中心の訪問介護業務)
通所介護(デイサービス)の介護職員人員配置基準
利用者が15人までの通所介護では、介護職員が1人以上必要です。利用者が16人以上の場合、5人ごとに1人(利用者1人ごとに0.2人分)がさらに必要となります。
人員配置基準人数 ≧ (利用者数-15)÷5+1
利用者が23人の場合であれば、常勤換算で2.6人以上の介護職員が必要となることから、例えば常勤を2人、残りの0.6人分を非常勤の介護職員で補うなどの方法で基準を満たします。
※定員10人以下の地域密着型通所介護においては、介護職員または看護職員のいずれか1名がいればこの配置基準を満たしたとみなされます。
通所リハビリテーション(デイケア)の介護職員人員配置基準
通所リハビリ(デイケア)では、サービス提供時間を通じて利用者10人までは1人の介護職員が必要です。11人以上の場合は10人ごとに1人の介護職員がさらに必要です。
人員配置基準人数 ≧ 利用者数÷10(小数点以下切り上げ)
つまり、11~20人までは2人、21~30人までは3人の配置が必要になります。
特養・老健・介護付き有料老人ホームの介護職員人員配置基準
介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)では、いずれも要介護者の利用者3人に対し、常勤換算で1人の介護職員が必要です。
人員配置基準人数 ≧ 利用者数÷3(小数点第2位以下切り上げ)
入所者が70人の施設であれば、常勤換算で23.4人の介護職員を配置する必要があります。
常勤換算の計算方法を覚えよう
施設の種類ごとに定められたこれらの「人員配置基準」を、その施設が実際に満たせているかを判定するために、スタッフ全員の労働力を公平に測定する方法が、前述した「常勤換算」です。
常勤換算の計算は1か月(4週間)を基本として行い、基本的な計算方法は次の通りです。
常勤換算人数=全従業員の1か月の勤務合計時間÷事業所の定める常勤職員の勤務すべき時間
これまで見てきたように、所定労働時間を週32時間未満と設定している事業所の場合は週32時間を常勤の基本とします。一方で労働基準法では、特例を除いて週当たりの労働時間は40時間を超えてはならないとされています。つまり、計算式の母数「常勤職員の勤務すべき時間」は、週32時間~40時間の範囲で計算することになります。
それでは、具体的な計算を以下の条件で見ていきましょう。
- この施設での常勤者が勤務すべき時間は週40時間。4週間で160時間
- 非常勤Aさんの勤務時間は4週間で128時間
- 非常勤Bさんの勤務時間は4週間で96時間
この条件を計算式に当てはめると、「(128時間+96時間)÷160時間=1.4」で、この施設での常勤換算人数は1.4人となります。
この施設が利用者17人の通所介護(デイサービス)の場合、人員配置基準が「(17-15)÷5+1=1.4」となり、基準を満たすことができますが、利用者が18人の場合は「(18-15)÷5+1=1.6」となり、基準を満たすことができません。足りない0.2人分を補う必要があります。
なお、常勤者の場合は、「勤務延時間」を算入できます。勤務延時間とは、勤務表上事業に関わるサービスの提供や準備時間などとして明確に位置づけられている時間で、通所の場合は労働基準法に定められている最低限の休憩時間も含まれます。
※算入できる上限は常勤者が勤務すべき時間まで
では、上記の条件に「4週間で180時間勤務する常勤Cさん」を加えて計算してみましょう。
- この施設での常勤者が勤務すべき時間は週40時間。4週間で160時間
- 非常勤Aさんの勤務時間は4週間で128時間
- 非常勤Bさんの勤務時間は4週間で96時間
- 常勤Cさんの勤務時間は4週間で180時間
Cさんは180時間の勤務時間ですが、算入できるのは常勤者が勤務すべき時間となるので160時間で計算します。
(128時間+96時間+160時間)÷160時間=2.4
式から導き出される常勤換算は2.4人となります。
さらに、これを通所介護(デイサービス)の人員配置基準の式「人員配置基準人数≧(利用者数-15)÷5+1」にあてはめると、「2.4=(22-15)÷5+1」となり、この施設では22人の利用者をみることが可能だとわかります。
では、この通所介護(デイサービス)施設の利用者が60人だった場合、常勤換算で何人の介護職員が必要でしょうか。
・この施設での常勤者が勤務すべき時間は週40時間。4週間で160時間
これを通所介護(デイサービス)の人員配置基準の式に当てはめると、「(60-15)÷5+1=10」となり、常勤換算で10人の介護職員が必要だとわかります。この施設の常勤者が勤務すべき時間は4週間で160時間ですから、「160時間×10人=1600時間」となり、介護職員全員の勤務時間の合計は1600時間となります。
また、常勤換算では、有給休暇や出張の取り扱いは常勤者か否かで計算が異なります。常勤者の場合は、有休や出張も勤務しているとして計算に含まれます。しかし、非常勤の場合には算入できません。ただし常勤者でも長期出張や休暇が暦の上で1か月を超えたときには計算から除外します。産休や育休も長期休暇に該当しますので、基本的には算入できない点に注意しましょう。
介護ICT活用による常勤換算の緩和|人員配置基準と介護報酬改定

2024年の介護報酬改定では、介護ICTを活用している施設において、人員配置基準を緩和する複数の特例が設けられました。ネットワークカメラやセンサーのような見守り機器などを活用することで、必要とされる人員配置数が引き下げられます。これらの特例はすべての事業所で一律に適用されるわけではなく、施設形態やICTの導入範囲に応じ、特定の要件を満たした場合に全体の人員配置や夜勤職員の配置数を緩和できるしくみで、事業所が任意で選択するものです。主に介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)などが対象となります。
例えば、介護付き有料老人ホームにおいて、利用者3人(要介護者)に対し、常勤換算で1人以上の介護職員が必要だった従来の人員配置基準を0.9(3:0.9)へと緩和する特例の適用には、単にICT機器を導入するだけでなく、以下の複数の要件をすべて満たす必要があります。
- 複数のテクノロジー活用:見守り機器や介護記録ソフトウェアなど、複数のテクノロジーを適切に活用している
- 職員間で適切な役割分担の取り組みを実施している
- 安全性とケアの質を確保するための評価体制(事業所内委員会の設置など)が整備されている
- 上記の取り組みにより、介護サービスの質の確保および職員の負担が軽減されていることがデータにより確認できる
今後も、介護人材の確保と持続可能な介護保険制度の構築のため、テクノロジーの導入・活用を前提とした人員配置基準の柔軟化が進むでしょう。

年収の壁は178万円へ?|常勤換算と介護現場の働き方への影響
これまで見てきた「常勤換算」は介護報酬算定に関わるものであり、勤務時間に基づく人員配置基準です。しかし一方で、職員本人は年収の壁を意識して働き方を調整するケースが多くあります。
これまであった年収の壁
・税制上の扶養(103万円・123万円・160万円・201万円の壁)
パートやアルバイトで働くうえで、重視されていたのが103万円の壁です。これが働き控えを招いていたことから、配偶者控除・配偶者特別控除の適用年収上限が引き上げられました。123万円までは配偶者控除が、160万円までは満額の配偶者特別控除が、201万円未満までは段階的な配偶者特別控除が適用されるようになり、これらの壁を超えても実質的な世帯としての手取り金額は増える仕組みとなりました。
・社会保険上の扶養(106万円・130万円の壁)
106万円の壁は、週20時間以上の勤務や月額賃金8万8000円以上、一定以上の企業規模といった要件を満たした場合に社会保険の加入義務が生じて実質的に手取りが減少してしまうものです。
130万円の壁は、原則、社会保険の扶養から外れるとされるラインです。勤務先で社会保険に加入しない場合は国民年金・国民健康保険に加入する必要があります。
これらの「106万円の壁」「130万円の壁」について、見直しが進んでいます。
106万円の壁の賃金要件・企業規模要件について撤廃を進める施策や、労働契約上の年間収入が130万円未満であれば、実際の収入が一時的に増えた場合でも、扶養から外れない扱いにできる仕組み作りが行われました。
新たに変わる年収の壁
・所得税(178万円の壁)
これまで、さまざまな「壁」により、働き控え(就労調整)を余儀なくされている労働者が多くいたため、2026年度税制改正で所得税に関する年収の壁が178万円へ引き上げられました。このことから就労調整をしていた労働者が所得税負担をこれまでほど意識せずに働けるようになると期待されています。人手不足に悩む介護事業所においてもシフト設計の柔軟性が向上するでしょう。
しかし、シフト調整によって勤務時間が増え、社会保険の加入対象となれば社会保険料の負担がかかります。勤務時間を増やす際には、本人の希望と負担の変化を丁寧に確認することが欠かせません。
さらに、働くスタッフの勤務時間は常勤換算の計算に関わります。事業所としては、こうしたさまざまな制度を理解し、職員の希望と人員配置の安定を両立させなければならないのです。
常勤換算の理解と正しい介護報酬算定で事業所の安定的な運営を

前述したように、常勤換算は年収の壁となる金額とは関係なく、それぞれの労働時間を元に適切な人員配置を行う基準です。
人員配置基準を満たさなかった場合には、原則として介護報酬は減算されます。人員配置基準の違反が続くと、指定取り消しや業務停止などの行政処分が科される可能性もあるでしょう。
年収の壁と常勤換算を正しく理解したうえで、無理のない人員配置を行うことが、介護事業所の安定した運営につながります。
数年おきに実施される介護報酬改定に加え、税制や社会保険制度の動向も把握し、介護報酬の算定を正しく行うようにしましょう。

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