コロナ禍時代の介護BCP義務化と対策

2019年3月に、介護事業におけるBCPに関する記事「介護施設でも「事業継続計画(BCP)」を策定して非常事態に備えよ 」を掲載しました。それから2年半の歳月が経ち、今、私たちを取り巻く環境は大きく変化しています。頻発する地震や、地球温暖化に由来しているともいわれる、台風や集中豪雨の増加に伴い、自然災害は激甚化しています。さらに、新型コロナウイルスの地球規模の感染症禍にも直面しました。このような状況下で、2021年度に施行された介護報酬改定では、2024年をめどにしたBCPの義務化が明記されました。今回は、緊迫感を増している最新の介護BCP情報についてまとめました。

介護事業者におけるBCP(業務継続計画)とは?

BCPは”Business Continuity Plan”の頭文字を取った言葉で、「業務継続計画」という意味があります。BCP とは、自然災害、感染症のまん延、テロや重大事件の発生などによって経営環境に変化が生じた場合でも、事業を中断させないための体制や方針を示した計画書のことです。事業が中断してしまった場合でも、最短の時間で復旧させるために最善の対策を立てます。

介護施設は、介護を要する高齢者や、その家族の生活を支えるうえで、欠かせない場所となっています。そのため、突発的な自然災害や、感染症の拡大が発生した際の介護施設の業務継続性は、非常に重要であるといえるでしょう。

なぜこの2年間でBCPが重視され義務化に至ったのか?

2019年時点では、6割以上の社会福祉施設がBCP策定を行っていない状況でした。しかし、ここ2年間でBCPの重要性が認識されはじめ、2021年度の介護報酬改定で、BCP対策の策定が義務付けられたのです。相応な準備が必要なことを踏まえて、3年間の経過措置が設けられ、完全義務化は2024年度からとなっています。

BCP義務化の背景には、近年発生頻度を増している自然災害と、新型コロナウイルス感染症の拡大のふたつが挙げられます。

2011年3月に発生した東日本大震災以降にBCPが注目されるようになりました。近年は、豪雨や台風によって介護施設が多大な被害に遭う事例が増えています。災害発生時の人命を優先した安全確保や、サービス継続体制の確保などの必要性が増したことが、BCPが重視されるきっかけとなったのです。

また、現在も世界的に感染拡大が続いている新型コロナウイルス感染症は、基礎疾患を有する人や高齢者が重症化しやすいという特徴があり、介護施設でのクラスター発生も頻回にみられています。そのため、よりいっそうの感染対策を強化しながら、可能な限りサービスの提供を継続していくことの必要性が重視され、BCP策定が義務付けられたのです。

介護施設におけるBCPの考え方

介護施設におけるBCPの重要なポイントは以下の3点です。

  • サービスの継続

介護施設は、利用者の日常生活や健康管理、生命維持にかかわるサービスを提供しています。サービスの提供停止は利用者の生活、健康、生命の支障に直結するため、自然災害や感染症などの緊急時にサービスの提供を継続できるような体制を整えておくことが求められます。

  • 利用者の安全確保

なんらかの介護を要する人が介護サービスを利用しています。自然災害が発生し、避難する際にスムーズに移動できないことも想定されます。また、人によっては体力や抵抗力が弱い場合もあるため、感染症にかかったら重症化するリスクも高くなります。こうした介護サービス利用者の特性を念頭に置いたうえで、利用者の安全確保を整えていくことが大切です。

  • 職員の安全確保

サービスを継続し、利用者の安全を確保することは、職員の安全確保ができていなければ成立しません。自然災害時や感染症拡大時は、職員にとって過酷な労働環境になり、感染のリスクもあります。そのため、職員の感染防止対策や、労働環境への配慮などの対策を立てておかなければなりません。

BCPを作成する際のポイント

BCPを実際に作成する際に、押さえておくべきポイントについて詳しく紹介します。

  1. 正確な情報収集と的確な判断を共有する体制の構築

自然災害発生時や感染症拡大時には、正確な情報を収集することが重要です。また、得た情報をもとに的確な判断を下し、全体でそれを共有する必要があります。そのためには、全体の意思決定を行う人を決めておき、関係者の連絡先や、情報伝達方法を整えておくようにしましょう。

  1. 【自然災害の場合】建物や設備の損壊対策とインフラ停止時の対策

地震や風水害による自然災害の場合は、主に施設や設備の損壊、社会インフラの被害による問題が発生します。事前に、建造物の新耐震基準の確認や、施設内の設備を固定するなどして、地震の揺れによる転落や落下を防ぐ対策を行いましょう。

また、インフラが停止した場合のバックアップも重要です。特に電気供給が停止した場合に、エアコンや見守り機器、酸素供給や介護用具などのICT機器は使用ができないことが想定されます。非常用の発電装置を備えておいたり、電池でも使用できる備品を用意したりするなどの対策を立てておく必要があるでしょう。

【感染症拡大の場合】業務継続のための人員確保

建物やインフラに大きな影響をおよぼす自然災害と違い、新型コロナウイルス感染症は、人と人とのやりとりに大きな影響が生じます。そのため、職員が感染者や濃厚接触者となった場合の人員確保対策が重要になります。人員が不足するようであれば、事業所や法人内で柔軟な配置変更を行う、関連団体または自治体へ応援依頼するなどを検討しておきましょう。また、被害の拡大を防ぐためには感染防止策が重要です。あらかじめ感染予防マニュアルを作成し、感染予防に必要な備品を十分にそろえておきましょう。

  1. 業務の優先順位の整理

自然災害により建物が損壊したり、感染症により職員が不足したりした場合、限られた環境、職員数でサービスを継続しなければなりません。そのため、すべてのサービスを提供できないことも想定されます。利用者と職員の安全確保を第一に考え、業務の優先順位を整理しておくようにしましょう。

  1. 計画的に実行するために事前に周知、研修・訓練

BCPを作成しただけでは実用性がなく、スムーズに遂行できないことが考えられます。実際の場面に遭遇した際に迅速な対応ができるよう、業務関係者に計画内容を周知し、事前に研修や訓練を行うことが大切です。また、BCPは作成してそれで終わりではなく、最新の知見を踏まえて、定期的に見直すことも必要です。

 

BCPで一番大切なことは?

BCPでは「いのちを守る(利用者も職員も同等に)」、「介護サービスを継続提供する」、「地域との迅速な連携」 といった要素が重要となります。
これらを実現させるために忘れてはならないのは、利用者の情報をしっかりと管理することです。
災害によって情報が失われてしまうと、過去の介護記録や持病などを把握できず、適切なケアが実施できなくなります。また、新型コロナウイルスに感染した利用者の情報が漏えいしてしまうと、さまざまな対応に追われて人員確保ができなかったり、社会的な信用を失ってしまったりすることも想定されます。
自然災害や感染症の拡大はいつ起こるかわかりません。情報管理も含めてBCP対策をしっかりと行い、各事業所で十分な備えをしておきましょう。

参考:

社会福祉施設などにおけるBCPの有用性に関する調査研究事業|厚生労働省

介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発症時の業務継続ガイドライン|厚生労働省老健局

介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省老健局

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