
介護人材育成
離職率低下につながるアサーティブコミュニケーションとは 5月病対策にも有効?
5月は新年度の始まりから1か月が経過し、新人スタッフにとって疲れが出やすい時期です。介護職は他の業種に比べて5月病になりやすいといわれているため、事業所としては対策を講じる必要があります。そこで、従業員のメンタルヘルス維持や5月病予防に役立つとされるアサーティブコミュニケーションの手法についてご紹介します。
新人介護スタッフの5月病対策が大切な理由
5月病とはどのような状態なのでしょうか。新生活が始まる春は、環境の変化によるストレスが蓄積されやすく、知らず知らずのうちに無理を重ねてしまうことがあります。その結果、ゴールデンウィーク前後にだるさ、無気力、不眠、食欲不振など、心身の不調が現れる場合があります。これらがいわゆる5月病の症状で、特に新入社員に多く見られる傾向があります。5月病は正式な医学用語ではありませんが、その主な原因は疲労とストレスだといわれています。これまで好きだったものや趣味への興味が薄れたり、漠然とした不安感を覚えたりする場合は注意が必要です。早めの受診が推奨されます。
公益財団法人介護労働安定センターの令和4年度の調査によると、介護業界では入職してから1年以内の離職率がおよそ35%となっており、他業種と比べても高い傾向があります。また、介護職は特に5月病になりやすいといわれています。慣れない環境や新しい業務の中で1か月ほど経過すると、緊張や疲労が蓄積され心身の不調が生じることがあり、この時期は新人の離職リスクが高まるタイミングといえます。したがって、新人の離職防止には5月病への対策がまず重要と考えられます。
介護職は5月病のリスクが高い? 予防のための対策は
介護スタッフが5月病になりやすいとされる理由は何でしょうか。もともと介護現場では、職種や経歴、年齢が多様なスタッフが連携して働くため、考え方や立場の違いから人間関係のストレスやコミュニケーションのトラブルが発生することがあります。また、慢性的な人手不足により時間に追われることが多く、業務量の負担が大きいことや、給与、待遇、評価基準への不満も5月病を誘発する原因と考えられます。
しかし、同じ職場で働いていてもすべての新人が5月病になるわけではありません。責任感が強く、真面目で仕事熱心、問題を自分ひとりで抱え込みやすい、または他人に気を遣いすぎるといった性格的特徴のある人は、特に5月病になりやすい傾向があります。
上述のような症状が現れた場合、放置するとうつ病など深刻な心身のトラブルに進行する可能性があるため、早期発見と適切な対処が肝心です。とはいえ、何よりも5月病自体を予防することが重要です。本人がストレスや疲労をためこまないよう自己管理と生活習慣の見直しを行うことが大切ですが、事業者側においても5月病になりにくい職場環境の整備が求められます。
そのためには、コミュニケーションが取りやすい職場環境づくりが有効です。日常的にコミュニケーションが円滑な介護事業所では離職率が低いといわれており、職種や上下関係にかかわらず意見交換が活発な職場では、コミュニケーションに起因するトラブルが少なく、スタッフの意見や不満も引き出しやすくなるため、5月病を早期に発見しやすくなります。こうした職場環境づくりに寄与すると考えられる手法のひとつが、アサーティブコミュニケーションです。
アサーティブコミュニケーションで離職率の低い環境づくりを

アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しながら自分の意見を率直に伝えるコミュニケーション手法です。「アサーティブ」とは自己主張するという意味ですが、自分の意見を押し付けるのではなく、相手の立場にも配慮しながら主張する姿勢を指し、「アサーション」という言葉も同じ意味で使われることがあります。
職場や学校などで円滑な人間関係を築くには、考え方や立場の違いから意見が対立する場面でも、感情的にならずに相手を尊重し、自分の意見や要望を伝えることが大切です。この手法を用いれば、相手を不快にさせることなく、自分も過度なストレスを感じずに意見交換が可能です。特に、さまざまな職種や経歴、年齢のスタッフが一緒に働く介護現場では、有効に機能すると考えられます。
アサーティブコミュニケーションを身につけるにはトレーニングが必要ですが、これを職場全体に取り入れることで、各スタッフが自分の意見を表明しやすくなり、働きやすい環境づくりにつながります。職場で自分の意見を表明しやすい環境が整えば、スタッフは心理的な安全性を感じ、ハラスメントの防止やストレスの軽減にも寄与し、結果として業務効率や生産性の向上が期待できます。さらに、職場での意見交換が活発になれば、トラブルやリスクの早期発見にもつながるでしょう。
こうした理由から、アサーティブコミュニケーションは5月病の予防と早期発見にも有効であると考えられます。
*アサーティブコミュニケーションについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください
■アサーティブな話し方、反応とは 介護で重要なアサーティブ・コミュニケーション「4つの柱」とは
5月病予防にアサーティブコミュニケーションを取り入れよう

特に5月病のリスクが高まる時期には、相手の立場や感情に配慮したコミュニケーションを心がけることが大切です。スタッフの状況や困りごとを引き出すために、質問の仕方を工夫する余地があります。そのためには、「閉じた質問」と「開かれた質問」を使い分けるアサーティブコミュニケーションの手法が役立ちます。
「閉じた質問」とは、「はい/いいえ」で答えられる質問のことです。一方、「開かれた質問」は、「はい/いいえ」だけでは答えられず、具体的な返答を求める質問の仕方です。例えば、元気のなさそうな部下に対し上司が「閉じた質問」で「大丈夫?」や「何か問題ある?」と尋ねた場合、部下は本当は問題を抱えていても、つい「はい(大丈夫です)」「いいえ(問題ありません)」と答えてしまい、会話が広がらない可能性があります。これでは、部下が抱える問題や不満を十分に引き出せず、かえって本人を追い詰めてしまうリスクがあります。
そこで重要になるのは、「はい/いいえ」で終わらない質問の仕方を工夫することです。たとえば、「今、あなたにとって最も問題になっていることは何ですか?」「私に手伝えることがあるとすれば、どんなサポートがあればよいでしょうか?」など、相手から具体的な情報を引き出す「開かれた質問」を活用しましょう。開かれた質問では、答える側が話したい内容を選択でき、予想外の情報が得られる可能性があるため、多くの情報を引き出し、新しいアイデアを創出するのにも役立ちます。
このようなアプローチは、さまざまな場面で状況や問題を把握する際に有効ですが、特に仕事に不慣れな新人スタッフへの声がけの際には意識して取り入れたいものです。
アサーティブコミュニケーションで離職率の低い職場づくりを
介護業界で新人の離職率を下げるためには、5月病対策が重要なカギとなります。コミュニケーションが円滑な事業所では離職率が低い傾向にあり、普段から職場全体のコミュニケーション環境を整えることが、5月病対策としても有効です。スタッフの意見や不満を引き出しやすいアサーティブコミュニケーションを取り入れることで、離職率低下につなげる効果が期待できます。
