正しく理解して再発予防!介護現場におけるヒヤリハット事例集

介護現場において、ヒヤリハットはつきものです。ヒヤリハットは不注意から起こることもあるため、心がけ次第と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、ヒヤリハットへの対処について正しく理解していれば、再発防止につながり、重大事故を予防できるかもしれません。ヒヤリハットへの対処法を正しく理解し、活用していくことでよりよい職場環境づくりができるのです。

ヒヤリハットって何?

ヒヤリハットについて正しく理解できているという人はいるでしょうか。ヒヤリハットについて考える前に、まずは正しい知識を持つことが重要といえます。ヒヤリハットとは何かについて確認しましょう。

災害の一歩手前がヒヤリハット

厚生労働省兵庫労働局作成の資料によれば、ヒヤリハットとは「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象」のことです。ヒヤリハットを放置しておくと、軽症事故や重大な事故につながるおそれがあり、ヒヤリハットの時点で、対策を講じていくことが重要だと考えられているのです。

ヒヤリハットは悪いことではない! 隠さずに報告を!

ヒヤリハットが起きたら、報告することが重要です。ヒヤリハットは個人のミス、不注意ととらえる人も多いようです。ヒヤリハットを報告するのは、自分のミスを報告することと考えてしまい、報告せずに隠してしまうケースも少なくありません。しかし、ヒヤリハットを報告することには意味があります。当事者の経験したヒヤリとした思いを職員全員で分かち合い、再発防止方法を検討する機会にする必要があるのです。それが結果として、重大事故の防止へとつながります。

ハインリッヒの法則とは?ヒヤリハットの背景と関係性を解説

「ヒヤリハット」は、ハインリッヒの法則に由来する言葉です。ハインリッヒの法則は、アメリカの安全技師であるハインリッヒの研究に基づき、事故と危険有害要因の関係を示した法則です。この法則によると、1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故、そして300件の被害のない事故(ヒヤリハット)が存在し、さらにその300件のヒヤリハットの背景には、危険につながる状態や行動が数千件あると指摘されています。
この法則で重要なのは、数字による対比自体ではなく、事故や災害の背景に数多くの危険を招く要因が潜んでいることです。事故を未然に防ぐためには、ヒヤリハットなどの情報を充分に収集し分析した上で、リスクを軽減するための適切な対応策を講じることが求められます。

介護事故とヒヤリハットの関係 分類レベルを知っておこう

死亡、または医師の診断・治療が必要となる傷害を伴う事故が介護現場で発生した場合、介護事故として自治体に報告する義務があります。ヒヤリハット事例を職場全体で共有し、分析して事故防止に役立てるためには、介護事故報告書とは別に記録用のフォーマットを作成することが推奨されます。

その際、「事故の芽」ともいえるヒヤリハットから、実際に損害を伴う介護事故に至るまで、事例の重篤度をレベル分けしておくと、事故予防や再発防止策を検討する際に役立ちます。この記録用フォーマットには、事例ごとに5W1H(いつ、誰が、どこで、どのような状況で、どのような理由で、どのような被害があったか)を明記し、レベル分類を記載できる書式を採用します。以下に、事例のレベル分類と記録の例を挙げます。

レベル0/不安全行動
脱衣室の床が水で濡れたままになっており、利用者が足を滑らせたが、近くにいたスタッフが体を支えたため転倒には至らなかった。

レベル1/被害のない事故
脱衣室の床が水で濡れたままになっており、利用者が足を滑らせて転倒したが、ケガはなかった。

レベル2/軽微な事故(自治体によっては報告が必要)
脱衣室で利用者が転倒し、腰を打撲した。

レベル3/重い事故(報告義務のある介護事故に該当)
脱衣室で利用者が転倒し、足を骨折した。

本当にあったヒヤリハット事例集

実際に介護現場で起こったヒヤリハット事例を紹介します。介護施設で働く方は、この事例を参考に、さまざまなヒヤリハットが自分の働く職場でも起こりえることを心にとめておきましょう。

重大事故の現状とヒヤリハットの重要性

公益財団法人介護労働安定センターが2018年に公表した報告書「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」によると、2014年8月から2017年10月の期間に報告された介護事故のうち、重大事例の65.6%が転倒や転落によるものであり、ヒヤリハット事例としても最も多いことがわかっています。
普段、何げなく行っている動作の中にこそ、重大事故につながるリスクが潜みます。
事故にはならなかったものの、転倒・転落・誤嚥などの“ヒヤリ”とした場面や“ハッ”とした出来事は現場でよく見受けられます。これらを「よくあること」と軽視せず、報告・分析して対策に活かすことが重要です。

【転倒・転落事故】最も多いヒヤリハット事例

■■車椅子利用時のヒヤリハット■■

  • 物を拾おうとしての転落未遂
     車椅子に乗車中、下に落ちたものを取ろうと前かがみになり、足をフットレストに乗せたまま転落しそうになった。
  • フットサポートやブレーキの不具合による危険
     上げていたはずのフットサポートが車椅子から立ち上がった瞬間に足に落下し、バランスを崩しそうになった。
     車椅子のブレーキが甘いため、移乗時に車椅子が動き出して転びそうになった。
  • 座面や姿勢の問題
     車椅子の座面が前に傾いていたため、利用者が前傾姿勢になり転落しかけた。
  • 介護者の動作ミスによるリスク
     車椅子からベッドへの移乗時、介護者が利用者の足元を確認せず急いで車椅子を引いた結果、フットサポートが利用者の足に当たりケガをしそうになった。
  • 不意の動作や衝撃などのヒヤリハット
     介護者が車椅子を押して移動中、急ブレーキをかけて利用者が前のめりに倒れそうになった。
     角をうまく曲がれず利用者の足が壁にぶつかった。

■■歩行時のヒヤリハット

  • 誤った支えによる転倒リスク
     ベッドサイドテーブルなど固定されていない物を手すり代わりにして立ち上がろうとし、転びそうになった。
  • 環境・時間帯の影響
     入浴時に風呂場の床が滑りやすく転倒しそうになった。
     夜間、電灯をつけずに歩いて多点杖のベースにつまずきそうになった。
  • 衣類や履物によるリスク
     靴がうまく履けていない、ズボンが下がっていた等で自分の靴やズボンにつまずいて転倒しそうになった。
  • 設備・補助具使用の不備
     可動式手すりが使用できず、転倒しかけた。
     歩行車で移動中、歩行車本体と壁の間に手を挟み、壁でこすれてケガをしそうになった。
     床置き式手すりの支柱に利用者のつま先がぶつかりケガをしそうになった。

【誤嚥・窒息・むせこみ】食事や日常動作中のヒヤリハット

■■誤嚥・窒息・むせこみの発生状況■■

転倒・転落に続いて重大事故が多いのは、「誤嚥(ごえん)」「窒息」「むせこみ」で、全体の約13%を占めます。
これらは食事の場面だけでなく、意外な状況でも発生することがあります。

■■具体的な事例■■

  • 食事・おやつでの危険
     包装紙に気づかず、包装紙ごと食べて飲み込みそうになった。
     嚥下障害があり食事形態が制限されているにも関わらず、普通食を食べそうになった。
     義歯をつけ忘れたまま食事を開始し十分に噛めず誤嚥しそうになった。
  • 姿勢不良による事故
     ベッド上で食事介助時、背もたれの上げが足りず誤嚥しかけた。
     車椅子上で不良姿勢のまま食事介助をした結果、誤嚥しそうになった。
  • 口腔ケア・歯磨き時のリスク
     歯磨き中に歯磨き粉の泡を吐き出さずに飲み込みそうになった。
     口腔ケアで痰が詰まり、処置を中断して痰吸引を行った。
     うがいの際にむせた。
  • 睡眠中の窒息リスク
     就寝中、仰向けで嘔吐し、自分の吐物で窒息しそうになった。

■■見守りと予防の重要性■■

食事や歯磨き等は職員がそばで見守っていることが多いですが、それでもヒヤリハットは起こっています。見守りの際、何ができるのかを事例から考え、危険を見逃さない体制を検討しましょう。

【介護者にも潜むヒヤリハット】

■■介護者が経験したヒヤリハット事例■■

  • 用具操作時の事故
     車椅子を開こうとしたら固く手を挟みそうになった。
     慌てて歩行車を折りたたもうとした際、指を挟みそうになった。
     携帯式段差解消スロープを素手で収納しようとした際、指を挟みそうになった。
     ベッドを動かす際にボード部分を持ち上げたところ抜けて転倒しそうになった。
     ベッド組み立て時、壁に立てかけた部品が倒れてきた。
  • 介助・移乗時のケガリスク
     転びそうになった利用者を支えた際、バランスを崩して一緒に転びそうになった。
     無理な体勢で移乗や移送を行い、腰を痛めそうになった。
  • 利用者+用具の重量による事故
     利用者を車椅子に乗せ、レール型スロープで階段を下りた際、足を踏み外して転倒しそうになった。
     スロープを下りる際、利用者と車椅子の重さを支えきれず倒れかけた。

■■介護者の安全対策も大切■■

ヒヤリハットは利用者に限らず介護者自身にも及びます。これらの事例をもとに介護者の安全管理についても考え、事業所全体で対策を検討しましょう。

参考:ヒヤリハット事例検索|公益財団法人テクノエイド協会

ヒヤリハット事例を見て、「自分の施設でも似たようなことがあったけど報告していないな」、あるいは「このくらいで報告する必要があるのか」と思われたかもしれません。冒頭からお伝えしているように、重大事故をなくすためにもヒヤリハットの報告は非常に重要です。ここからは、ヒヤリハットの報告方法を紹介します。

ヒヤリハットを報告しよう!施設側も必要性を認識している

・ヒヤリハットを報告することで重大事故を防げるという理解が施設にはある
厚生労働省が2022年に公表した調査報告「介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」から、特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設におけるヒヤリハット報告・記録の活用状況を見てみましょう。
調査対象となった施設全体の92.8%が「介護事故やヒヤリハットなどの原因や対応に関する分析結果を、委員会などを通じて職員に周知している」と回答しています。また、43.7%の施設が「介護事故やヒヤリハットなどの原因に着目し、他の利用者一人ひとりのリスク評価や事故防止策の策定を行っている」としています。

さらに、介護事故防止に向けて効果のあった取り組みとして、52.1%の施設が「ヒヤリハットの原因究明や再発防止策の検討」を挙げています。このことから、多くの施設がヒヤリハット事例の報告や分析結果を介護事故防止に活用し、一定の成果を上げているといえるでしょう。また、各施設でヒヤリハット報告の重要性が十分に浸透してきていると考えられます。

施設内でヒヤリハットの報告対象とする範囲については、「事故発生につながる可能性が高い・事例」と回答した施設の割合は 92.2%でした。一方で、「入所者への影響は認められなかった事例」も報告の対象に含めると回答した施設の割合は56%になっています。施設によって報告の対象範囲は異なり、利用者への影響が認められないならば報告不要の施設が半数近いようです。しかし、小さなヒヤリハットにも重大な事故につながる可能性があるということを考えると、ヒヤリハットの規模にかかわらず、報告をするほうがよいといえるでしょう。
ヒヤリハットの報告については、96.5%の施設が様式を定めています。さらに、「施設独自のヒヤリハット報告書」に記載している施設が78.4%、「施設独自のヒヤリハット報告書」が29.7%となっています。施設の取り決めに従って対応することで、業務の一環としてヒヤリハットの報告ができるのではないでしょうか。

「令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究」P46~52

報告された事例分析は介護者が行っているのが現状! 職種全体で共有を

「介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」(2022年調査)によると、まとめたヒヤリハットや事故事例の分析や対策については、ほとんどの施設で介護職員、看護職員、特養では生活相談員にゆだねられているようです。また、その他の職種が事例の分析・対策にあまり関わっていないことも見受けられます。介護現場は多くの異なる職種が連携して働く職場ですから、分析や対策の検討には、他職種もかかわることが再発防止の観点からよいと考えられます。ヒヤリハットの分析や防止対策のための会議には全職員が参加して、職種にかかわらず全員がヒヤリハット事例を自分のことととらえられるようにしていきましょう。ヒヤリハット事例の共有・分析不足で同じような事例が発生しているという声があったり、全職種で情報共有することで、ヒヤリハットや介護事故が防ぐことができたという声もあったりします。
限られた職種だけで分析、対策をするのではなく、すべての職種で情報を共有しながら対策をしていきましょう。

「令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究」P46~52

重大事故につながらないようにヒヤリハットで対策していこう

ヒヤリハットに遭遇した場合に、事故につながらなかったからよかったと終わらせるのではなく、今後起こりうる重大な事故の予兆ととらえて、分析と対策を講じることが必要です。「ヒヤリハットは自分のミスが原因」ととらえて隠してしまうことがあります。このような思考回路にならないように、職員全体がヒヤリハットを「自分ごと」としてとらえて、情報を共有していくことが重要です。

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