仕事と介護の両立を支えるために介護施設ができること

家族に介護が必要となったとき、気がかりとなるのが仕事と介護の両立です。特に、フルタイムで働いている人にとっては、どう両立していくかが大きな課題となるのではないでしょうか。そこで、今回は仕事と介護の両立をめぐる現状や問題点を知り、介護施設としてできることを一緒に考えていきましょう。

仕事と介護の両立をめぐる現状とは

超高齢社会の日本においては、増え続ける高齢者を減少傾向にある現役世代が支えているのが現状です。「令和3年度高齢社会白書」によると、2042年までは高齢者の増加が続くと予測されています。都道府県別に見ても、すべての都道府県で高齢者数は増加しています。しかし、都市規模別に見てみると、都市規模が大きいほど高齢者人口は増えているものの、人口が5万人未満の都市では2020年から減少に転じ、2035年には2015年よりも高齢者人口が減る見込みです。今後は大都市圏を中心に高齢化が進むことが予想されます。

介護者の現状に目を向けてみると、介護保険の第1号被保険者(65才以上)がいる世帯のうち、介護認定を受けている人は2018年度末で約645万人となっています。介護をしている人の続柄を見てみると、同居家族が約54%、別居家族が約14%と、介護者の約7割が家族という状況がわかりました。

それでは、「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」をもとに、仕事と介護の両立の現状について考えてみましょう。調査結果によると、家族の介護をしている人は約628万人、そのうち就業している人(有業者)は約346万人であり、約半数が仕事と介護を両立している状態でした。

介護離職者数について見てみると、過去1年間に介護・看護を理由に前職を離職した総数は全国で9万9,000人でした。前回の平成24年(2012年)調査と大きく変わりはないものの、都道府県別では、地方を中心に離職率が上がっています。介護離職者総数のうち、調査時点ですでに次の仕事に就いている人は、前回調査より7,000人増となる2万5,000人であり、介護している人の有業者率は全国的に増加傾向にあることがわかりました。このような結果から、介護離職の問題は地方を中心に起こっているものの、仕事と介護を両立している人も全国的に増えていると考えられます。

では、仕事と介護を両立している人は、自宅介護と施設入所のどちらが多いのでしょうか。厚生労働省の調査「介護サービス基盤整備について<参考資料>」によると、介護保険サービスを利用している人の多くは在宅サービスを利用しています。しかし、年齢が上がるにつれ、居住サービスや施設サービスを利用する割合は高まり、85歳以上の介護保険サービス利用者のうち25%は施設入所となっています。

このような状況から、要介護者の多くが自宅で生活しており、同居もしくは別居の家族が自宅での介護を担っていると考えられるでしょう。

参考:高齢化の現状と未来|令和3年度高齢社会白書

参考:高齢化の状況|令和3年度高齢社会白書

参考:地域別に見た高齢化|令和3年度高齢社会白書

参考:平成29年就業構造基本調査|総務省

仕事と介護の両立が抱えるふたつの問題点

就労している介護者にとって、仕事と介護の両立にはさまざまな問題が生じます。そのなかでも、多くの介護者が直面すると思われるふたつの問題点について、考えてみましょう。

支援制度がうまく利用できていない

株式会社大和総研が作成した資料「介護離職の現状と課題」によると、以前は非正規職員の介護離職が多かったものの、2010年代に入り正規職員の介護離職者が増加していることがわかりました。2015年以降は、非正規職員より正規職員の介護離職者数が上回っている状況です。このことから、正規職員のほうが仕事と介護の両立が難しい状況にあると考えられるでしょう。

政府は介護離職ゼロに向けて、さまざまな施策を行っています。1999年以降は、事業主に介護休業の導入が義務付けられ、2017年時点で介護休業制度の規定がある30人以上規模の事業所は全体の約91%にのぼります。ところが、介護休業等制度の利用率は、正規職員で10%、非正規職員では7.5%と非常に低いのです。

この背景には、介護者の多くが40~50代であることが影響していると考えられます。40~50代の介護者のうち、約3人に1人はなんらかの役職に就くなど責任の重い任務を担っており、業務負担が大きいことから代替要員がいない状況が生じている可能性もあるようです。上述の大和総研資料には、介護している就労者が感じる具体的な不安感として、「自分の仕事を代わってくれる人がいない」(42.5%)という回答がもっとも多かったという労働者調査の結果が示されています。同調査では、「介護サービスや施設の利用方法がわからない」、「どのように両立支援制度と介護サービスを組み合わせればよいかわからない」という回答割合もそれぞれ20%近く見られました。この結果からも、支援制度がうまく利用されていない状況が見えてきます。

また、事業所内で介護休業制度が利用しにくい雰囲気があることも、支援制度の利用が少ない原因のひとつでしょう。日本では、諸外国と比べて正規職員の労働時間が長く、介護のために早く帰ろうと思っても帰りにくいという状況が考えられます。実際に、介護離職者の半数以上は離職前に働き方を変えたいと希望していました。しかし、時短勤務やテレワークなどの柔軟な働き方ができる事業所は限定的です。

両立のニーズに対応できる介護サービスの不足

仕事と介護の両立では、さまざまな不安が伴います。自宅で介護をしている人を対象にした「在宅介護実態調査データの集計・分析結果 〔概要版〕」によると、フルタイム勤務の在宅介護者が不安に感じる介護として、「認知症状の対応」「日中・夜間の排泄」が多いことがわかりました。これらの介護は、要介護度が上がるほど頻度を増す可能性が高く、介護に要する時間が増えていきます。

この問題に対応するのが、訪問系サービスです。在宅介護を行っている就労者のうち、「仕事を問題なく続けていける」と考えている介護者は、訪問系サービスの利用回数が多くなっています。また、訪問系サービスの利用回数が多いほど、施設検討率は低下傾向にあり、訪問系サービスが認知症の対応や排せつ介護の不安軽減につながっています。

このようなニーズに対応できるサービスには、頻回の訪問サービスが利用可能な定期巡回・随時対応型訪問介護看護や、訪問と通い、泊まりを柔軟に組み合わせ定額利用ができる小規模多機能型居宅介護などがあります。しかし、これらのサービスは事業所数が少なく、利用者や介護者のニーズに応えきれていません。厚生労働省の「令和元年 令和元年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、2019年10月時点では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所は約1,000か所あり、前年度に比べ4.6%の増加を示していますが、絶対数が少ないことは否めません。一方、小規模多機能型居宅介護事業所は約5,500か所あるものの、増加率はわずか0.6%となっています。

仕事と介護の両立では、介護度が上がり自宅での介護負担が大きくなってきたときのことも考えなくてはいけません。自宅での介護に限界を感じたときには、施設入所や居住系サービスの利用を検討するのもひとつの方法です。しかし、介護保険施設のひとつである特別養護老人ホームは、原則要介護3からの入所となっています。また、入所申し込みをしてもすぐに利用できるとは限りません。実際に、厚生労働省が発表した待機者数(Press Release 「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」より)は、2019年4月1日時点で約29万人にのぼります。

一方で、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅といった居住系サービスは、近年その件数が増加しています。ただし、高齢者向け住まい・施設(老人ホーム、サービス付き高齢者住宅など8種類)の整備状況は、65歳以上の高齢者人口に対する整備率が全国平均6.1%にとどまっており、整備状況はまだ不十分といえるでしょう。

参考:介護離職の現状と課題|株式会社大和総研

参考:全国の在宅介護実態調査データの集計・分析結果|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

参考:R01概況(施設・事業所の状況)|厚生労働省

参考:特別養護老人ホームの入所者申し込みの状況|厚生労働省

参考:介護サービス基盤整備について|厚生労働省

仕事と介護の両立を支える保険外サービス

前述したように、仕事と介護を両立するための介護サービスは不足しているのが現状です。また、介護保険サービス事業だけでは、仕事と介護の両立を支えるにあたって限界があるでしょう。そこで、検討したいのが介護保険外サービスの導入です。日本総合研究所が実施した「介護に取り組む家族の支援に資する民間サービスの普及・促進に関する調査研究事業報告書」によると、介護者の多くが介護と仕事の両立のための保険外サービスの活用に肯定的ということがわかりました。そのなかでも、ニーズが高い介護保険外サービスを2つご紹介します。

両立支援を含めた家族向け介護相談サービス

利用したい保険外サービスで最も多いのは「ご家族向けの介護相談サービス」であり、53.2%が利用意向を示しました。実際に利用している人や利用したことがある人も11.2%となっています。「仕事と介護の両立に関する相談・支援サービス」も50.6%の利用意向があることから、両立支援も含めた家族向け介護相談サービスはニーズの高い保険外サービスといえるでしょう。夕方や夜、土日祭日に相談できるサービスや、メールやオンラインでリアルタイムに相談できるものであれば、より両立支援に役立つのではないでしょうか。

緊急時対応・駆け付けサービス

介護が必要な人向けのサービスで利用意向が最も高いのは、「緊急時対応・駆け付け」です。介護をしていると、体調の急変や転倒によるケガなど、緊急に対応が必要となることがあります。仕事をしている場合には、緊急時にすぐに駆けつけることが難しいこともあるでしょう。突然のことで、目の前で起こっていることにどう対応していいかわからなくなるかもしれません。このようなときに、すぐに対応してくれたり、駆け付けてくれたりするサービスがあれば、仕事と介護を両立している人にとっては大変に心強いものとなるでしょう。

参考:全国の在宅介護実態調査データの集計・分析結果|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

参考:介護に取り組む家族の支援に資する民間サービスの普及・促進に関する調査研究事業報告書|日本総合研究所

 

保険外サービス導入で仕事と介護の両立を支えよう

介護をするうえで介護保険サービスの利用は重要です。しかし、それだけでは仕事と介護を両立するために、十分とはいえない状況であると考えられます。介護施設側が今のサービスに保険外サービスをプラスすることは、家族の介護負担を軽減するきっかけになるかもしれません。仕事と介護の両立の支援を見据え、保険外サービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 


参考:すべて本文中に記載

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