正しく理解して再発予防!介護現場におけるヒヤリハット事例集

介護現場において、ヒヤリハットはつきものです。ヒヤリハットは不注意から起こるため、心がけ次第と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、ヒヤリハットへの対処について正しく理解していれば、再発防止につながり、重大事故を予防できるかもしれません。ヒヤリハットへの対処法を正しく理解し、活用していくことでよりよい職場環境づくりができるのです。

ヒヤリハットって何?

ヒヤリハットについて正しく理解できているという人はいるでしょうか。ヒヤリハットについて考える前に、まずは正しい知識を持つことが重要といえます。ヒヤリハットとは何かについて確認しましょう。

災害の一歩手前がヒヤリハット

厚生労働省兵庫労働局作成の資料によれば、ヒヤリハットとは「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象」のことです。事故と危険有害要因の関係を示すハインリッヒの法則によると、1 件の重大事故の裏に、29 件の軽傷事故、300 件の無傷害事故(ヒヤリハット)があるといわれています。そのため、ヒヤリハットを放置しておくと、軽症事故や重大な事故につながるおそれがあり、ヒヤリハットの時点で、対策を講じていくことが重要だと考えられているのです。

ヒヤリハットは悪いことではない!隠さずに報告を!

ヒヤリハットが起きたら、報告することが重要です。ヒヤリハットは個人のミス、不注意ととらえる人も多いようです。ヒヤリハットを報告するのは、自分のミスを報告することと考えてしまい、報告せずに隠してしまうケースも少なくありません。しかし、ヒヤリハットを報告することには意味があります。当事者の経験したヒヤリとした思いを職員全員で分かち合い、再発防止方法を検討する機会にする必要があるのです。それが結果として、重大事故の防止へとつながります。

参考:

本当にあったヒヤリハット事例集

実際に介護施設で起こったヒヤリハット事例を紹介します。介護施設で働く方は、この事例を参考に、さまざまなヒヤリハットが自分の働く職場でも起こりえることを心にとめておきましょう。

重大事故数No.1!転倒・転落

公益財団法人介護労働安定センターが2018年に公表した報告書「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」によると、2014年8月から2017年10月の期間に報告された介護事故のうち、重大事例の65.6%が転倒転落であり、ヒヤリハット事例としても最も多いことが推察されます。

車椅子と歩行の場合に分けて事例を見ていきましょう。まず、車椅子の場合には以下のような事例があります。

  • 車椅子に乗車中に、下に落ちたものを取ろうとして、足をフットレストに乗せたまま前かがみになり、そのまま車椅子から転落しそうになった
  • 上げていたはずのフットサポートが、車椅子から立ち上がった瞬間に足に落下し、バランスを崩しそうになった
  • 車椅子のブレーキが甘く、移乗しようとしたときに車椅子が動き出して転びそうになった

次に、歩行の場合には以下のような事例があります。

  • ベッドサイドテーブルなど、固定されていないものを手すり代わりにして立ち上がろうとした際に転びそうになった
  • 入浴時に風呂場の床に滑って転びそうになった
  • 靴がうまく履けていなかったり、ズボンが下がっていたりしていた際に、自分の靴やズボンにつまずいて転倒しそうになった

普段何げなく行っている動作に、実はもっともヒヤリハットのリスクが潜んでいます。事故にはならなかったものの、利用者が転倒あるいは転落しそうになったという状況はありませんか? 紹介した事例は、介護現場ではよく見受けられる状況です。「よくあることだから」と軽視せずに、ヒヤリハット報告書を作成して現状を把握し、対策を分析していかなければなりません。

重大事故数No.2!誤嚥や窒息、むせこみ

上述した報告書のなかで、転倒・転落・滑落の次に重大事故につながった事例として多かったのが、誤嚥(ごえん)や窒息、むせこみ(13%)です。窒息や誤嚥と聞くと、発生するのは食事中だけと思うかもしれませんが、食事中以外にも起こりえる事故なのです。誤嚥や窒息、むせこみには以下のような事例があります。

  • おやつやデザートの包装紙に気づかずに、包装紙ごと口に入れて飲み込みそうになった
  • 就寝中に上を向いたまま嘔吐し、自分の吐物で窒息しそうになった
  • 嚥下(えんげ)障害があり、食事の形態が制限されているにもかかわらず、普通食を食べそうになった
  • 歯磨き粉をつけての歯磨き中に、口腔内の泡を吐き出さずに飲み込みそうになった

食事や歯磨きなどは職員がそばで見守っていることが多いですが、それでもヒヤリハットは起こっています。見守り時に職員に何ができるのかを、これらの事例から検討していくとよいでしょう。

介護者に関するヒヤリハット

利用者をヒヤリとさせてしまう事例だけでなく、介護者自身がヒヤリとするような事例もあります。介護者自身に関するヒヤリハット事例も見ておきましょう。

  • 車椅子を開こうとしたら固くて開かず、思いっきり力を入れたときに手を挟みそうになった
  • 転びそうになった利用者を支えたときに、バランスを崩して一緒に転びそうになった
  • 無理な体勢で移乗や移送を行い、腰を痛めそうになった

ヒヤリハット事例というと利用者に目が向きがちですが、介護者のヒヤリハット事例も押さえておきたい重要事項です。介護者のヒヤリハット事例を参考に、利用者だけでなく介護者自身の身を守るための対策も考えていきましょう。

参考:

ヒヤリハットを報告しよう!施設側も必要性を認識している

ヒヤリハット事例を見て、「自分の施設でも似たようなことがあったけど報告していないな」、あるいは「このくらいで報告する必要があるのか」と思われたかもしれません。冒頭からお伝えしているように、重大事故をなくすためにもヒヤリハットの報告は非常に重要です。ここからは、ヒヤリハットの報告方法を紹介します。

ヒヤリハットを報告することで重大事故を防げるという理解が施設にはある

厚生労働省が2018年に公表した調査報告「介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」から、介護老人福祉施設のヒヤリハットへの対応状況を見てみましょう。「介護事故やヒヤリ・ハット等の報告の仕組みや改善策」を、事故発生防止のための指針に挙げている施設の割合は79.1%でした。施設側もヒヤリハットは適宜報告していくことが必要であると考えているようです。

施設内でヒヤリハットの報告対象とする範囲については、「事故発生につながる可能性が高い状態・事例」と回答した施設の割合は 93.0%でした。一方で、「入所者への影響は認められなかった事例」も報告の対象に含めると回答した施設の割合は 48.2%にとどまります。施設によって報告の対象範囲は異なり、利用者への影響が認められないならば報告不要の施設がまだ多いようです。しかし、小さなヒヤリハットにも重大な事故につながる可能性があるということを考えると、ヒヤリハットの規模にかかわらず、報告をするほうがよいといえるでしょう。

また、94%以上の施設で、ヒヤリハットを報告する様式が定められています。また、ヒヤリハットの対応の取り決めをしている施設では、93.6%の施設が「記録する」ことをとりきめの内容に挙げています。施設の取り決めに従って対応することで、業務の妨げにならずにヒヤリハットの報告ができるのではないでしょうか。

報告された事例分析は介護者が行っているのが現状!職種全体で共有を

まとめた事例の分析や対策については、ほとんどの施設で介護職員にゆだねられているのが現状です。しかし、分析や対策の検討には、他職種もかかわることが再発防止の観点からよいと考えられます。ヒヤリハットの分析や防止対策のための会議には全職員が参加して、職種にかかわらず全員がヒヤリハット事例を自分のことととらえられるようにしていきましょう。ヒヤリハット事例の共有・分析不足で同じような事例が発生しているという声があったり、全職種で情報共有することで、ヒヤリハットや介護事故が防ぐことができたという声もあったりします。

介護職だけで分析、対策をするのではなく、職種全体で情報を共有しながら対策をしていきましょう。

参考:

重大事故につながらないようにヒヤリハットで対策していこう

ヒヤリハットに遭遇した場合に、事故につながらなかったからよかったと終わらせるのではなく、今後起こりうる重大な事故の予兆ととらえて、分析と対策を講じることが必要です。「ヒヤリハットは自分のミスが原因」ととらえて隠してしまうことがあります。このような思考回路にならないように、職員全体がヒヤリハットを「自分ごと」としてとらえて、情報を共有していくことが重要です。

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