アサーションとは? アサーティブコミュニケーションとロジカルシンキングで介護職員のスキルアップ

介護現場のレベルアップを図るために有効とされる手法はさまざまです。多様な職種の連携が不可欠とされる介護現場のコミュニケーションでは、ロジカル(論理的)に考え、それをわかりやすく適切に伝える建設的なスキルが重要とされます。そこで役立つのが、アサーションと呼ばれるコミュニケーション手法や論理的思考(ロジカルシンキング)です。今回はこれらのスキルと関係性についてお伝えします。

 

アサーションとは何か?

アサーションとは「自分の意思や要求を表明する権利が、誰にでもある」という考えにもとづき、相手の意見に耳を傾けながら、自分の主張はきちんと伝えていくというコミュニケーションの手法です。アサーション(assertion)の単語は直訳すると「主張・明言」という意味になり、誰にでも自分を主張する権利があるのは基本的な概念ですが、人によって意見や考え方が違うのも当然です。

どのような職場でも自分の意見を表明する場面になったときに、自己主張だけを目的にしていては、意見の押し付けや衝突になるなど議論やチームワークの妨げになってしまいます。そこで、重要になるのが、相手の意見や要求とそれを表明する権利を尊重しつつ、適切に自分の意見を表明することです。このことから、コミュニケーション手法のアサーションは単なる「主張」を超えて、自他を尊重しながらの自己表現といえるでしょう。

アサーションの歴史をみると、その発祥は1950年代のアメリカです。初めの頃は、アサーションは自己主張という意味合いで、自己主張がうまくできない人に向け、自信や自尊心を取り戻すためのカウンセリングの方法とされていました。他者を傷つけずに自己主張をするアサーションの手法は、それまで行動や表現などの権利を制限されていた人たちに大きな影響を与えるようになります。1960年から70年代にかけ、黒人差別撤廃を目指した公民権運動とも深くつながり、70年代の女性解放運動(ウーマン・リブ)にも受け継がれていきました。

日本にアサーションの考え方が入ってきたのは1980年以降で、人間関係をよりよくするためのトレーニングの手法として用いられるようになりました。

日本の職場では人間関係を理由に退職する人が少なくありません。人間関係の問題は働く人のメンタルひいてはパフォーマンスにも大きく影響します。そのため、人間関係を改善しようと多くの企業で面談やランチ会、飲み会などが試みられています。とはいえ、職場の人間関係は日常を通して築かれるものですから、日ごろのコミュニケーションの質を上げていくことが人間関係の改善に、より有効と考えられます。その手法として、アサーションが着目されているのです。

アサーティブコミュニケーションがもたらすメリット

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以上のことから、アサーションは相手を尊重しながら自己主張するというコミュニケーションスキルになりますが、単なる「主張」という意味合いもあるので、それと区別するうえで、アサーティブコミュニケーションとも呼ばれます。ここでは、職場におけるアサーティブコミュニケーションのメリットをみていきましょう。

どのような職場でも、誰でも自分の意見や要求を伝える場面では緊張がともないます。その場合、主張を通すことに気を取られ、攻撃的な言葉遣いになると、相手も攻撃的になったり、萎縮したりすることもあるでしょう。これでは、言いたいことがうまく伝わらず、どちらかの意見の押しつけになったりするなど、話をしているのに意思疎通ができていないコミュニケーションロスが発生してしまいます。コミュニケーションロスは認識の食い違いや情報の共有不足に直結するので、例えば、間違った商品を納品してしまう、担当者の引き継ぎがうまくいかないといったトラブルを招くことがあります。そうなると、生産性の低下や職場の人間関係の悪化にもつながりかねません。

これとは対照的に、アサーティブコミュニケーションでは、段階を踏みながら、相手を尊重する言葉を選び、自分の意見や要求を伝えます。この方法はDESC法と呼ばれ、次のようになります。

 

Describe(描写):感情的にならずに客観的な事実を描写します

Explain(表現):“描写”の事実について、相手の気持ちを考えつつ、自分がどう思うか伝えます

Suggest(提案):具体的な解決策を提案します

Choose(選択):相手の反応により、自分が次にとる行動を選択します

 

この手法のコミュニケーションは上司や部下、同僚、利用者などさまざまな関係性や立場で使えます。例えば、日誌や伝票をよく遅れて出す後輩への伝え方では、次のように応用できるのではないでしょうか。

 

D:「今日までに提出のはずの資料が出ていない」ことを伝える

E:「資料が揃わないので、情報を共有できずに困っている」ことを伝える

S:「書き方がわからない、書式が使いにくいなどあれば、相談してほしい」と改善策を提案する

C:相手の返答によって、書き方の指導や書式の改善など行う

 

相手にイヤな思いをさせないよう言葉を選びながら、このように段階を踏んで、自分の意見や要求を率直に伝えることができれば、コミュニケーションロスを減らせます。これにより、生産性の向上や働きやすい職場環境の実現も期待できるのです。

 

アサーションで介護職員のスキルアップ

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こうしてみると、アサーションの考え方は非常に合理的といえないでしょうか? 率直で筋が通っている意見には、誰しも賛同しやすいものです。つねに忙しく多様な職種が関わり合う介護現場で生産性を上げるには、合理的なコミュニケーションが特に求められます。そのような現場では、そもそも論理的思考(ロジカルシンキング)も必要とされます。

ロジカルシンキングとは、直感や感覚的な判断に頼るのではなく、矛盾や破綻がないよう順序立てて論理的に考え、結論を導き出す思考法です。ロジカルシンキングは自分の意見を論理的に組み立て正確に説明するのに役立つので、どの仕事においても有効といわれています。しかしながら、一人で進める仕事はほとんどないことから、コミュニケーションスキルも同様に重要となります。

個人個人がロジカルに考えをまとめていても、介護は立場や職種の異なる複数の人たちが関わる仕事です。周囲と連携しながらスムーズに業務を行うためには、アサーティブコミュニケーションのスキルが非常に有用です。これを理解することが、介護職員のスキルアップにつながります。

 

*こちらの記事もご参照ください。

今注目の表現技法「アサーティブ」は介護現場にこそ必要

https://www.dearest-partners.jp/829/

コミュニケーションスキルが介護の質を上げる

超高齢社会がますます加速するなか、介護現場の多能化やスキルアップはきわめて重要な課題といえるでしょう。IoTの進化が介護現場のチカラとなる反面、人と人をつなぐコミュニケーションスキルの重要性にあらためて着目する必要があります。合理的かつ働きやすい環境を整備するためには、設備の充実のみならず、人財の多能化にそのカギがあるのかもしれません。

 

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