脳トレに計算ドリルがおすすめ 音読とセットで認知症の予防と改善に効果的

認知症を予防するには、適度な刺激を与えて脳を働かせることが大切です。脳科学の研究によると、複雑な問題に取り組むよりも簡単な計算をすると脳全体が活性化することがわかっています。また、簡単な計算と音読をセットで行うことで、認知症の予防に加え、すでに発症している場合にも効果が期待できます。高齢者向けの脳トレとして、計算ドリルの効果やアクティビティへの取り入れ方について解説します。

 

カンタンな計算が脳トレになる理由

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脳はさまざまな機能を担ういくつかの領域で構成され、計算の能力は前頭前野と呼ばれる部分がつかさどります。加齢とともに脳の認知機能は低下していくものですが、特に計算の能力は衰えやすく、計算能力の低下は認知症の判断基準のひとつにもなっています。

そこで、認知症を予防するには脳に適度な刺激を与えて働かせ、認知機能を維持することが大切です。

計算能力が落ちてくると、買い物に行っても支払いがうまくできない、家計簿がつけられないなど、日常生活に支障をきたすようになります。これは、脳の前頭前野の衰えによるもので、そのまま放置すると自立して暮らすことがむずかしくなり、生活の質(QOL)も低下してしまいます。

 

そうさせないためには、脳を活性化させて認知機能の低下を止めたり、改善をはかる必要があります。その方法のひとつが計算のトレーニングです。

衰えやすいとされる計算能力ですが、トレーニングによって鍛えることができるのです。

そう聞くと、難解な問題にトライしなければいけないように思えますが、実はその逆です。

脳科学の専門家による実験では、複雑で難解な問題よりも、ごく簡単な計算問題を短い時間で取り組む方が、前頭前野を中心に脳全体が活性化することがわかりました。

実際に高齢者の脳トレに計算ドリルを取り入れることで、認知機能への好ましい効果がみられています。

例えば、すでに認知症を発症している人の周辺症状に効果がみられたり、日常生活においても「自分でできることが増えた」「コミュニケーションが活発になった」など、いろいろなことに意欲的になってきたとの事例が報告されています。

 

 

音読とコミュニケーションでより効果的

脳の中で計算の機能をつかさどる前頭前野は、「計算」以外にも、「ものごとを考える」「感情や行動をコントロールする」「コミュニケーションをする」などの高度な働きをする部分です。また、前頭前野には「脳の他の領域に指令を出し、機能させる」という役割もあります。前頭前野は、いわば『脳の司令塔』でもあり、人の認知機能にとって欠かせない部分といえます。そのため、前頭前野の機能を維持することが認知症予防に役立つのです。

 

脳科学の研究で、「音読」は計算のときと同じように前頭前野から脳全体が活性化することがわかっています。

そこで、高齢者施設のレクリエーションなどで脳トレとして計算ドリルを取り入れる場合、音読とセットで行うとより効果が期待できます。

いずれも長い時間をかけて行う必要はなく、計算ドリルと音読、各5〜10分程度でかまいません。

 

加えて、人間の脳は人とのコミュニケーションによっても活性化します。

特に、他人から褒められたときには、脳はたちどころに活性化します。誰にとっても、褒められる経験はやりがいや達成感になるものです。

計算や音読を通して達成感を積み重ねていくことができれば、活動そのものが楽しみになり、さらに意欲的に取り組めるでしょう。

 

脳が活性化すれば認知機能が向上し、日常生活の中でもできることが増え、意欲的になり、感情が豊かになるなどの効果が期待できます。つまり、認知機能の向上はQOLの向上につながるのです。計算や音読などの脳トレを日々の生活に取り入れて脳を活性化させることで、認知機能とQOL向上の好循環をつくることを目指してはいかがでしょうか。

 

 

計算ドリルをレクリエーションに取り入れよう

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脳トレとして計算ドリルをレクリエーションに取り入れる場合、利用者さんには楽しみながら取り組んでもらうことが大切です。高齢者施設で行う場合の準備や進め方、注意したいポイントをご紹介します。

 

・利用者さんのレベルにあったシンプルな四則計算

シンプルな四則計算(足し算・引き算・掛け算・割り算)で利用者さんのレベルにあったドリルを選びます。ただし、子供向けや簡単すぎるものは避けるようにしましょう。

高齢者や大人向けの計算ドリルが市販・ネット配信されているので、文字が大きめで見やすいものを選ぶようにします。

 

・具体的な声掛けで褒める

コミュニケーションを促すことも大事です。

「早く解けましたね」「スムーズに進んでいますね」など、取り組む本人が積極的になれるよう具体的な声掛けで褒めるようにします。

 

・無理強いをしない

興味のなさそうな人には無理強いをしてはいけません。

ただし、疎外感を持たせないよう、その場で一人でもできる何か他のアクティビティを用意しておきましょう。

 

・長い時間をかけて行わない

音読とセットで行う場合はあわせて10〜20分程度、どちらから行ってもかまいません。

 

・ドリルなしでもできるアクティビティもある

ドリルなしでできる計算のアクティビティもあります。

施設で複数の参加者で行う場合、計算の要素をあまり感じさせないクイズやパズル感覚の問題がおすすめです。

問題の例をあげておきますので、参考にしてください。

 

<例1:ホワイトボードを使った虫食い問題>

1) ホワイトボードを用意し、複数の参加者を前にスタッフが進行役になります。

2) 進行役が15+□=20、□-4=12 といった問題を1問ずつ書いて出題します。参加者は10秒程度の制限時間内で考えて、口頭で答えてもらいます。

問題の難易度は参加者のレベルにあわせて変えましょう。

 

<例2:数式のひらめき>

1) スタッフが進行役になり、参加者1人ずつに紙と鉛筆を配ります。

2) 進行役が「合計で20になる数式を考えてください」というように出題します。

参加者には、60秒以内に「答えが20」になる数式をできるだけたくさん考えてもらいます。

問題の数字は参加者のレベルにあわせて変えるようにしましょう。

 

 

計算ドリルを楽しむことがQOL向上に

脳トレやコミュニケーションによって認知機能が活性化し改善すれば、日常生活において自分でできることが増え、コミュニケーションが活性化するなど、QOLの向上につながります。

そうなると、本人だけでなく介護者にとってもメリットになるでしょう。

そのために大切になるのが、利用者さんが楽しみながら計算ドリルに取り組める環境づくりです。取り組む本人の意欲を促し、達成感を分かちあえるようなコミュニケーションを心掛けましょう。

 

 

 

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