いま求められる介護現場の業務改善

2040年にかけて、日本の生産年齢人口が減少する一方で、高齢化率の上昇にともない、介護ニーズもいっそう右肩上がりになっていくと見込まれます。そのうえ、介護職の若手人材不足も深刻化するといわれているのです。このような状況のもと、介護の質を保ちながら、より効率的で健全な人員配置と働き方を実現することが、介護現場の喫緊の課題となります。限られた貴重な人材資源を生かすためには、これまでの業務のやり方を見直し、改善しなければなりません。今回は「業務改善」をテーマに、人手不足のなかで介護サービスの質の維持・向上を目指す重要性と、業務改善のポイントを紹介します。

業務改善はなぜいま必要なのか?

戦後のベビーブームに誕生した団塊の世代と呼ばれる世代が75歳の後期高齢者となる2025年頃からは要介護者の増加が見込まれ、介護業界の人材不足が懸念されています。そのため、介護の現場では業務改善による環境整備が急がれています。

しかしながら、介護サービスにおける業務改善は、介護サービスの質の向上を通じて、利用者により快適なQOLを提供するために行うものです。つまり、業務を省力化して、介護する側の負担を軽くすることが主目的ではないのです。業務改善では、介護する側の都合に合わせて業務を効率化させてはいけません。そのような改善方法は利用者の尊厳を損なう可能性にもつながるため、絶対に行ってはいけないことも大原則です。

介護における業務効率化では、「ムリ」「ムダ」「ムラ」をなくして各作業の効率を上げることで利用者に対する介護の時間を増やし、サービスの質を向上させるという考え方がとても大切です。

それと同時に、介護職員が気持ちよく、悩みを持たずに、無理をせずに元気に働けるような環境づくりを図ることも、事業者や管理者の大切な責務です。事業目標に人材育成、チームケアの質の向上、人材の定着確保という大きなテーマを掲げ、これらを常に意識し実現しながらサービスの質の向上を目指すこと、つまり貴重な人材を大切に育成し、雇用を維持することが、管理者に求められています。

業務改善、基本の5Sと3MとPDCAサイクルとは? 

それでは、実際の業務改善はどのように進めていけばよいのでしょうか? まずは業務改善における基本キーワードを確認していきましょう。

5S

整理(せいり)、整頓(せいとん)、清掃(せいそう)、清潔(せいけつ)、しつけの5つの言葉の頭文字のSを取って5Sと呼ばれています。

3M

ムリ・ムダ・ムラの3つの語句の頭文字のM を取って3Mと呼ばれています。目的に対して手段が下回ることが「ムリ」、逆に上回ることが「ムダ」、上回ったり、下回ったりで定まらないことが「ムラ」と定義されています。

PDCA

他業種の仕事の進め方においても基本とされる、改善活動の標準的なステップです。

P(Plan)=計画を立て、全体の流れから具体的なスケジュールや人員を決める

D(Do)=実行をして活動に取り組む

C(Check)=改善活動を終えた時点で振り返り、評価を行う

A(Action)=実行した活動計画を修正し、次の改善活動へつなげる

業務改善においては、マネジメント層がPDCAサイクルを回し、成功例を積み上げていくことが必要です。現場の職員が5Sや3Mなどについて正しく理解していなければ、業務改善に至らない可能性もあります。

短期集中型の改善活動を行う上では、プロジェクトチームを編成するという方法があります。まずはマネジメント層を中心に、現場の業務改善に対して前向きに取り組める職員を集めます。各々の役割を明確化して一斉に改善に着手し、全員が一丸となって取り組むことが大切といえるでしょう。

介護業界における業務改善のカギはICT活用 

介護の現場では、日々の介護記録作成業務が時間的な比率の多くを占めています。介護職員は常に、種々のサービスにおいて複数の利用者のバイタルから、水分や食事の摂取量、入浴の時間や様子などを記録しなくてはなりません。

現在は、このような記録作業をスマートフォンやタブレットから行えるようになりました。Wi-Fi環境も整備され、利用者に寄り添いながら端末にバイタルなどのデータをその場で入力することは、いまや介護の現場では見慣れた光景となりつつあります。

介護施設の「申し送り」という業務を例にとると、バイタルや排せつのケア状況、食事量、水分摂取量、服薬状況などの基本的な管理項目に関する情報をデータとして集約できます。また、職員がコメントを記入し、それをほかの職員がスマートフォンやタブレットで確認することでサービス品質の向上も期待できます。

介護現場でICTを活用することにより、さまざまなアナログ業務を業務改善できます。たとえば、以下のようなケースがあります。

  • 夜勤時などスタッフが最小限の施設介護において認知症などの利用者が真夜中にベッドから立ち上がり徘徊などを行ってしまう場合の見守りセンサー
  • 違う階層の施設で急に人手が必要になった時や、利用者の様子をリアルタイムで共有し合えるインカム

介護現場におけるICT化は自治体から補助金の交付を受けて実施できる可能性もあります。介護現場の業務改善の対策として利用することも検討しましょう。

介護の現場ではどのような業務改善が行われているのか? 

実際に業務改善を成功させた事業所の具体例を紹介しましょう。

  • 「見える化」により、職員の5S活動に対する意識を高めた事例

職員の職場環境を良くしようという意識が薄く、職員の連携や協力も不足していた事業所において、5Sを見える化した事例です。整理前の状態を写真撮影し、掃除前と掃除後の状態をいつでも確認できるようになりました。その結果、100%の職員が業務改善の重要性を意識するようになり、81%の職員が職場の整理に心のゆとりを感じるという成果につながりました。

  • 業務時間を徹底調査分析して業務を見える化し3Mを削減した事例

始めに各職員の業務時間調査を2日間実施し、その内容を10分間単位でシートに「見える化」。実際の業務と業務予定表の差異からムリ・ムダ・ムラを発見し、解消に努めた事例もあります。

その結果、業務全体の流れを再構築し、より効率的で実態に近い業務表の作成に成功しました。業務時間に対する職員の意識向上にもつながりました。

  • ICTの積極導入で2.87:1の人員配置を実現した事例

業務の洗い出し、仕分けから課題の解決策の方向性を検討、ICT・介護ロボットの積極導入を行ったところもあります。具体的には、全居室に見守り支援機器、介護記録及び記録連携システムを導入、全職員がスマートフォン、インカムを装備、移乗支援機器の導入、浴室リフトの導入及び介護助手などの外部人材も活用し、結果的に夜勤帯の見守り時間の62%減、記録時間の49%減、介護、看護職員の人員配置を2.87:1の人員配置(実証前は2.0:1)を達成しました。

参考資料:業務改善の手引き事例集|厚生労働省老健局(PDF)

業務改善で介護ワークを人気職種にレベルアップ 

介護業界において業務改善を進める最終目的は、利用者へのサービスの質を高めながら、同時に職員の業務と自身の生活の質を高めていくことです。そのために事業者には、ICTを積極的に活用して、間接的な業務をロボットに任せるといった改善が求められています。まずはアナログ業務のうち、ICT化することで改善できる業務をリストアップしてみましょう。機器を導入することにより、簡単に業務改善を実現できる場合もあります。業務を改善することにより職員の負担が減れば従業員満足度やサービスの質の向上にもつながります。業務改善を実現するために、できる範囲で着々と進めていきましょう。


参考:

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