介護職転職者に「失敗」と思わせない、快適に働ける職場環境づくりを目指して

現在、さまざまな形態の介護施設が稼働していますが、それらの施設の管理者に共通している悩みのひとつが人材不足の問題です。人材不足を解決するためには、国や地方自治体が着手しなければならないことは多いと考えられます。その一方で、介護施設側ですぐに着手できることを考えたとき、自施設への転職者が「転職して失敗した」と思わないような職場環境づくりを目指すことが挙げられます。年末年始の帰省をきっかけに転職を考える人もいるでしょう。転職者が「この施設に就職したことは失敗ではなかった」と思える職場環境なら、職場全体の離職率を抑えられ、将来的に人手不足に困ることがなくなる可能性があります。今回は、転職者に「失敗」と思わせない職場づくりについて解説します。

介護職の転職動機とは?

介護職の転職動機について、公益財団法人介護労働安定センターが公表した「令和2年度「介護労働実態調査」結果の概要について」から探ってみましょう。

労働条件や仕事の負担に関する悩み、不安、不満などを聞いたアンケートの回答は、「人手が足りない」(52.0%)がもっとも多く、「仕事内容のわりに賃金が低い」(38.6%)、「身体的負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)」(30.6%)、「有給休暇が取りにくい」(26.8%)、「精神的にきつい」(25.6%)と続きます。これらの悩みが、転職のきっかけとなっている可能性が高いと考えられます。

また、2020年2月に総務省が公表した報道資料「統計トピックスNo.123 増加傾向が続く転職者の状況」では、日本全体で転職者数の増加傾向が続いており、「より良い条件の仕事を探すため」に前職を離職した転職者が増加していることを示しています。

したがって、上述の悩みや不安を感じさせない職場環境を整えることが、自施設への就職希望者を増やし、採用後の定着率向上にもつなげられると考えられます。

参考:

介護職の転職者が「失敗」ではなかったと実感できる職場環境の改善

それでは、転職の動機と思われる、介護職の悩みや不安を踏まえ、職場環境の改善策を考えていきましょう。より良い職場環境を提供できると、自施設に転職してくるスタッフの定着を促すだけではなく、自施設で現在働いているスタッフの離職も抑制することが可能です。

人手不足

スタッフの増員が人手不足の解消に直結すると考えられますが、新たに人材を確保することが難しい場合もあるでしょう。そのような際には、以下の方法を検討しましょう。

  • 人員配置の最適化

現状の人員配置が適切かどうかについて、利用者やスタッフへのアンケートを実施したり、スタッフと面談したりして判断します。また、各スタッフのスキルや適性なども把握しておく必要があります。利用者の状況によって、最適な配置は変化していくため、柔軟に対応できる体制を整えておくとよいでしょう。

  • シフト体制の見直し

最適な人員配置を考えていく際に、2交代制ではなく、3あるいは4交代制のほうが対応しやすい場合があります。スタッフの希望も考慮しながら検討しましょう。

賃金や労働条件

  • 賃金体系の見直し

給与はスタッフの労働意欲に大きく影響する要素です。厚生労働省が毎年公表する「賃金構造基本統計調査」を参考に賃金体系を見直し、スタッフのモチベーション向上につなげるとよいでしょう。

  • 勤務時間やシフト体制の見直し

各スタッフの勤務条件を把握し、希望を確認しておくことが重要です。公平性を保ちつつ、スタッフの希望を反映させたシフトを作成するためには、多くの労力を要するかもしれません。状況に応じて、シフト管理ソフトといったツールの導入を検討しましょう。

  • ICT化による業務効率向上

ICT機器やソフトウェアを導入して、日々の記録、情報共有、請求業務を一気通貫で行うことができれば、業務効率化が大きく進みます。

特に、利用者の移乗や移動を支援する介護ロボット、見守り機器などの導入は、スタッフの業務負担を大きく軽減するでしょう。

  • 福利厚生の充実

資格取得のための研修費用の補助は、スタッフにとって魅力的な福利厚生です。資格取得へ前向きなスタッフが増えると、職場の活性化にもつながります。家賃補助、食事補助、健康診断の補助なども喜ばれるでしょう。

また、育児や介護を理由に休業を希望するスタッフへの対応として、復帰支援プログラムを作成します。実際の復帰がスムーズになるだけではなく、休業することや復帰への不安を取り除くことができるため、離職防止に役立つでしょう。

人間関係の悩み

  • 相談体制の確立

だれもがいつでも気軽に相談できる体制を整えておくことが重要です。定期的に管理職が話を聞く機会を設ける、相談窓口を設置するなど、自施設の規模に合わせて体制を構築するとよいでしょう。

  • メンター制度の導入

人材育成に活用されるメンター制度は、経験の浅いスタッフの不安や悩みに対処しやすいため、導入を検討するとよいでしょう。

メンター制度について詳しくは「介護現場に「メンター制度」を導入して定着率をアップさせる方法とは? 」をご参照ください。

参考:

職場環境の改善成功例

公益財団法人介護労働安定センターが公表している「職場改善好事例」から、いくつか成功例を紹介しましょう。

賃金体系の見直し

九州地区の有料老人ホームの事例です。

  • 背景と取り組み

正社員と契約社員・パート職の間で、業務内容に大きな違いがないにもかかわらず、雇用形態が異なることについて、契約社員とパート職に潜在的な不満がありました。また、隣接する社会福祉法人と比べ、給与や賞与に格差があることも不満の要因でした。そこで、フルタイム勤務職員の契約社員から正社員への変更、定年制の引き上げを行いました。また、賃金体系を見直し、基本給、職能給、資格手当を改訂しました。

  • 効果

「処遇改善加算」などを活用したため、それまでの人件費を大きく上回ることなく改善を実現しました。2018年の退職者はゼロになり、常勤換算を大きく上回る人員配置が可能になりました。人員がそろっているため、職員が連続リフレッシュ休暇や希望休を取得しやすくなったことも効果のひとつです。

残業時間ゼロ

中国・四国地区の有料老人ホームの事例です。

  • 背景と取り組み

「紙ベースの記録作業に追われ、残業が増える」「口頭による情報伝達でミスコミュニケーションが生じる」などの問題で労働環境が悪化し、スタッフの離職が増えている状況でした。情報共有に課題があると考え、改善を目指して紙ベースからデジタル化への移行を図ることにしました。円滑かつ正確な情報共有と労働環境の改善を目的に、自社で情報共有システムを開発し、運用を始めました。

  • 効果

システム導入後、情報伝達の円滑化が達成されました。その結果、月あたり30時間の残業時間がほぼなくなり、離職者もゼロになったほか、有休消化率も60%から70%以上に向上したのです。残業時間と離職者数が減少したことにより、人件費10%削減を実現しました。また、自社の経験を含め、ほかの介護事業所へシステムの提案をする、外販も開始しています。

仕事とプライベートの両立をサポート

北陸甲信越・東海地区の有料老人ホームの事例です。

  • 背景と取り組み

多いときで約50%というほど離職率が高かったため、雇用管理改善に取り組みました。具体的には「年間休日を114日に増やす」「短時間正社員の導入」「パート社員の育児休暇制度導入」「メンター制度の導入」「ICT導入補助金を活用した超過勤務の削減」「福利厚生の充実」などです。

  • 効果

子育てや介護を理由とした離職を実際に抑えることができました。また、全体の離職率も約10%にとどまり、採用も順調に進んでいます。残業時間もほぼゼロとなり、平均有給取得率も全職員で75%を達成しました。

コミュニケーションの活性化

北海道・東北地区の特別養護老人ホームの事例です。

  • 背景と取り組み

求人募集を出しても新たな人材の確保が困難な状況下で、職員の定着率を上げながら新たな人材の確保を充足させていく必要がありました。職場環境改善には、室内環境と人間関係(コミュニケ―ション)が重要であると考え、休憩室の改装や健康維持のためのトレーニング設備設置などを実施しました。

  • 効果

休憩室やトレーニング設備設置場所がコミュニケーションの場となり、職員に好評を得ています。

参考:

できるところから始める理想的な職場環境づくり

事業所によって状況や抱える課題が異なることから、適切な改善対策もまた異なると考えられます。自施設の現状と課題を把握し、どのようなかたちが理想的なのかを検討しましょう。何を改善したいのかという目的を明確にしてから対策に取り組むと、高い改善効果が期待できます。長期的な取り組みのかたわら、短期的に効果が得られる対策にも取り組めば、施設の熱意をスタッフにすぐに伝えることができます。職場の雰囲気の速やかな改善やスタッフのモチベーション向上につながり、長期的な取り組みを後押しするでしょう。

参考:すべて本文中に記載

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