マズローの欲求階層説と密接な関係! 高齢者の自己実現に重要な内発的動機づけとは

人はなんらかの欲求と動機があって行動するといわれています。欲求を満たそうとすることは目標を達成しようとすることですが、そのためには動機づけが大きく影響します。動機づけは、報酬などを得ようとする「外発的動機づけ」と、自発的な「内発的動機づけ」の2種類に分けることができます。老後の自己実現には、内発的動機づけが重要になると考えられます。また、内発的動機づけはマズローの欲求階層説と密接に関係します。高齢者の自己実現をサポートする上で理解しておきたい、内発的動機づけと欲求段階の関係について知っておきましょう。

「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」 その違いとは


動機づけとは、なんらかの行動を起こすにあたって目標に向けて、ときには必要に応じて軌道修正しながら持続して進んでいく過程や機能全般のことで、意欲やモチベーションとも呼ばれます。動機づけを分類する上ではさまざまな考え方がありますが、心理学の考え方では、動機づけは「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の二つに分類されます。
このうち、外発的動機づけとは「報酬」「賞罰」「名声」など、他者から得られるものを目標として達成しようとするものです。具体的には「会社で昇進したい」「昇給のために仕事をがんばる」などといったことが外発的動機づけにあたります。
つまり、外発的動機づけによる行動では、その過程において他者からの評価や賞罰など外からの刺激によって大きく影響を受けます。

これに対し、内発的動機づけは「内面からわき出る好奇心や関心」「その行為をすることが楽しみになっている」という動機づけのことです。自分自身の中からわき出る興味や関心、自己実現感などが行動を起こす要因となりますが、これは他者の評価や賞罰とは無関係に、行為そのものが目的になっています。
内発的動機づけによる行動の具体例としては、「仕事をしていると新しい技術や知識が身につくのでがんばれる」「ボランティア活動で地域の役に立ちたい」などがあります。
こうした内発的動機づけによる行動は、仕事やボランティアの活動そのものに楽しみや意義を見いだすものです。また、自分から意欲的に取り組むことで、やりがいや生きがいづくりにもつながります。

内発的動機づけが高齢者の自己実現に重要な理由


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内発的動機づけによる行動は「やりたいから」「好きだから」などの理由から、自発的に起こすものです。目標達成まで意欲的に取り組むことができ、楽しみにもなるので、継続しやすくなります。いわば、自己実現のための行動で、人格的な成長にもつながります。
老後は報酬や社会的地位、名声といった外部からの評価を得る機会が少なくなります。そのような中で、高齢になっても自分らしくいきいきと暮らしていくには、健康の維持や趣味の活動など、楽しみながら続けていくことが大切です。内発的動機づけは、そのためのカギとなるものです。

ここで、高齢者の動機づけと生きがい感との関係についてのある調査結果を紹介しましょう。この調査によると、リハビリなどでデイサービスに通う人のうち、「友達ができるから」「しっかり歩けるようになりたいから」などの内発的な動機づけによる利用者の方が、「周囲からすすめられたから」などの外発的動機づけの利用者よりも高い生きがい感を得ていることがわかりました。
一方、外的な刺激による外発動機づけの効果は一過性のもので、人格的成長をうながすものではないという意見もあります。しかしながら、外発動機づけにより始めた行動がいつのまにか興味や関心が誘発され、内発的動機づけによるものに変化していく可能性もあるといわれています。例えば、当初は「医師や家族にすすめられて」といった動機づけから、通い始めた健康教室で友人ができ、通ううちに元気になることで前向きに取り組めるようになったので教室に行くこと自体が楽しみになるといった事例です。

マズローの欲求階層説と内発的動機づけの関係


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マズローによると『人間の欲求は「生理的欲求」を底辺の第1階層とし、次に「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」と階層を重ね、頂点の「自己実現欲求」までの5階層からなる』としました。人はひとつの段階の欲求がクリアされると、その上の段階の欲求を持つようになります。そして、自己実現を目指すことは最上位の欲求です。
第1から第3までの階層は、生きていくための基本的で本能的なものから、安全に暮らしたい、家族や会社などの集団に所属したいといった「低次欲求」といわれます。低次欲求は外的な要因や環境にかかわり、外的に満たされたいというものです。これらの欲求段階では、例えば「家の中の段差を解消したい」「趣味などのコミュニティに参加したい」などがあり、外発的動機づけになります。
これに対し、第4階層の承認欲求と第5階層の自己実現欲求は「高次欲求」と呼ばれます。それぞれ「認められたい」「尊敬されたい」「自分らしく生きたい」など、内的に満たされたいとする欲求です。これらの欲求を満たすには「自分の能力やスキルを向上させたい、評価されたい」など、内発的動機づけが欠かせません。

このように、動機づけはマズローの欲求階層説と深く関わっていることがわかります。
そこで注意したいのが、高齢者の自立をサポートするためにはその本人の欲求がどの段階にあるのかをまず知る必要があるということです。第3階層までの低次欲求が満たされていない人が内発的動機づけを持つのはむずかしいと考えられます。
例えば、施設に入所したばかりの人に対しては、安全に暮らせる環境であることを認識できているか、他の入所者となじんでいるかなど把握し、自己決定や自己実現を促せる段階にあるのかを見きわめることが大切です。

利用者の欲求段階にあわせたサポートを


外発的動機づけと内発的動機づけについて知っておくことは、高齢者のQOLを高め、自立をサポートする上で役に立ちます。ただし、なんらかの行動を促す場合、現在の本人の欲求がどの段階にあるのかを見きわめることが必要です。生理的なことや安全に関する基本的な欲求が満たされていない人に自分の意思で行動することを促しても、本人の負担になるのでかえってよくありません。逆に、承認欲求の段階にある人は、評価されることで内発的動機づけによる行動で自己実現に向けて進むことができます。
それぞれの欲求段階に応じたサポートをすることが大切です。

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