高齢者のQOLとADLを保つために まずIADLの低下予防を

高齢者の生活の質(QOL)の維持・向上を考える上で忘れてはならないのが、日常生活動作(ADL)です。近年、これと並び「手段的日常生活動作(IADL)」と呼ばれる指標が着目されています。

ADLとIADLは、ともに高齢者の日常生活における自立度を判断するための目安となるものです。多くの場合、ADL低下に先だってIADLの低下が起きるといわれており、QOLとADLを維持するにはIADLの低下予防が重要になると考えられます。

今回は、IADL維持の重要性と、低下予防の対策について解説します。

 

 

近年注目されるIADLとは ADLとの違い

高齢者のQOLはADLと深く関係するといわれています。ADLは日常生活動作(Activity of Daily Life)と呼ばれ、移動や食事、着替え、排泄、入浴などの動作を指します。これらの動作は日常生活をする上で最低限必要なもので、ADLはこれらの動作がどの程度できるか指標にしたものです。

これに加えて、近年、手段的日常生活動作(IADL)が注目されるようになってきました。IADLは「自分で買い物ができる」「交通機関を使っての移動」「電話応対」など、思考力や判断力をともなう動作の指標です。例えば「移動」ついて、ADLでは自分で歩いて、または車イスなどを操作して移動できるかどうかの判断になりますが、IADLでは公共交通機関を利用して移動できるかをみます。

例えば、交通機関を使って移動する場合、行き先にあわせて乗る電車やバスを選び、料金を確かめて切符を買うなどの思考や判断、意思決定が必要ですから、ADLでの移動よりも複雑で高度な動作です。したがって、IADLは自立して社会生活を送れるかどうかの目安になります。

自立生活や社会との関わりは生きがいやその人らしさにも大きく影響することから、IADLはより密接にQOLに関わると考えられます。

*IADLについては、こちらの記事もご参照ください。

高齢者のQOL向上のために ADLに加えて考えたいIADLやICFとの関係

 

IADLの低下予防が重要な理由と低下の原因

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一般的には、日常生活において自分でできることが多いほどQOLは高くなると考えられますが、そもそもADLが損なわれている場合はすでに介護が必要な状態です。これに対し、IADLは自立して暮らせるかどうかに大きく関わるものです。そのため、IADLが低下してくると自立した生活がむずかしくなり、QOLの低下も始まると考えられます。

したがって、IADLの低下はADL低下に先だって起きることが多く、QOLの維持・向上とADL維持のためには、まずIADL低下をくいとめることが重要です。そのためには、IADLを低下させる原因を知り、対策をしていきます。

IADLが低下する原因には、加齢や病気などによる認知機能や身体機能の衰えや環境の変化、精神的なストレスなどがあります。加齢による心身機能の衰えは誰にとっても避けられないものですが、介助の仕方や福祉用具の使用、バリアフリー環境の整備などの工夫次第で、ある程度機能を維持することが可能です。

環境の変化や精神的なストレスは、IADLにどう影響するのでしょうか。例えば、長年会社で働いてきた人が定年退職し、社会との関わりや人とのコミュニケーションの機会が減り、知的な刺激や体を動かすことの少ない生活になってしまうこともあるでしょう。生活環境が大きく変わるわけですから、そのような中で家事など家族に頼ったままでいると、これまでスムーズにできていた動作が短期間のうちにできなくなってしまうことがあるのです。今まで自力で簡単にできていたことができなくなるのは本人にとってはショックなものですから、これが精神的なストレスとなり、さらなるIADLの低下を招いてしまいます。

 

 

IADL低下を防ぐためのポイント

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高齢者施設で利用者のIADL低下予防に取り組むには、前提として個々の利用者のIADL評価を把握しておくことが必要です。その上で、IADLの低下予防のポイントは次のようになります。

 

・過剰な介護をしない

本人が自分でできることまで介助してしまうと、できることもできなくなってしまいます。また、少しがんばればできることを他人にやってもらうことは、身体機能の衰えを予防するためのトレーニングとなる動作の機会を奪ってしまうことになります。できる動作を維持し、少しでも増やすことが大切なので、本人のできることと少しがんばればできることを見きわめて、必要に応じた最低限のサポートをするようにしましょう。

 

・自分のことは自分でできる環境づくり

自分でできることは自分でするのがIADLを保つための基本です。加齢などで身体機能が落ちてできなくなる動作も出てきますが、工夫して補えることは補いましょう。

例えば、歩行が困難になってきた場合、杖や車イスを使用する、手すりを設置するなど環境を整えることで、自力での移動が可能になります。

以前よりも体を動かすことがむずかしくなっているのに、無理をしてこれまで通り動こうとするのはケガの可能性もありかえって危険です。

利用者の心や体の状態にあわせ、どのような環境や工夫があれば自分でできることが増えるのか検討しましょう。

 

・日々の生活にデュアルタスクを取り入れる

「デュアルタスク」とは、同時に平行して異なる動作を行うことです。頭を使いながら体を動かすことで、認知機能によい影響があるといわれています。

日常生活における代表的なデュアルタスクのひとつが料理です。

レクリエーションなどで簡単な料理やお菓子づくり教室を行うのもおすすめで、みんなでわいわい会話をしながら、料理をすると楽しめるでしょう。

この他にも、ウォーキングをしながら会話や簡単な計算、しりとりなどをすることや、足ぶみをしながらじゃんけんや歌を歌うといったこともデュアルタスクのトレーニングになります。IADL維持の為にも、高齢者施設でのレクリエーションに取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

・適度な運動や外出の習慣づけを

筋肉や骨の量を維持して、身体機能を維持することも大切です。そのためには、1日あたり10分程度歩いたり体操をするなど、体を動かすことを習慣づけましょう。

とはいえ、無理な動きでケガをすると、一気にIADLが落ちてしまいます。

無理のない範囲で毎日続けられる軽めの運動を利用者の状態にあわせて取り入れるようにします。散歩などの外出もおすすめです。

 

・しっかり栄養をとる

じゅうぶんに栄養がとれていないとフレイルに陥り、心身機能の低下を招くことでIADLも損なわれます。バランスのよい食事を習慣づけ、きちんと栄養をとることも大切です。

 

 

IADL低下予防でQOLとADLの維持を

IADLは高齢者の日常生活における自立度を知るための指標であり、自立して生活できるかどうかはQOLに大きく関わります。そのため、認知機能と身体機能を維持してIADLの低下を予防することが、QOLとADLを維持するためのカギといえます。

高齢者施設では自分でできることは自分でしてもらい、必要に応じて最低限のサポートをするという、IADL低下予防のための環境を整えることが大切です。

それぞれの利用者のIADLの評価を把握し、適切な環境づくりにつとめましょう。

 

 

 

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