介護現場のリスクマネジメント強化に役立つ ヒヤリハット事例とPDCAサイクルとは

介護現場のリスクマネジメントを強化するには、ヒヤリハット事例をもとにした対策と対応後の検証、そして改善までのプロセスをPDCAサイクルで実施することが重要です。効果的なリスクマネジメントを実践するために、PDCAサイクルに沿ったヒヤリハット事例の活用方法についてお伝えします。

 

ヒヤリハット事例をリスクマネジメントに役立てるために

リスクマネジメントとは、組織としてリスクを管理し、被害や損失を回避または減らそうとする手順のことをいいます。介護の現場でも利用者に良質な介護サービスを提供し、スタッフが働きやすい職場環境を整えるためには、リスクマネジメントが欠かせません。介護現場のリスクマネジメントは、発生する可能性の高い事故の原因を分析し、対策を講じていくことであるといえます。

それには、現場に潜むリスクを特定することが必要ですが、そこで役立つのがヒヤリハット事例です。ヒヤリハット事例とは、被害発生には至らなかった、事故になることを未然に防げた事例のこと。これはいわば「事故の芽」であることから、その対策を講じることがリスクマネジメントになります。リスク管理にヒヤリハット事例を活用するには、実際に起きた事例を組織で共有できるよう、文書で記録して報告することから始めます。ヒヤリハット報告書の記録に当たっては5W1Hで明記するのが基本です。5W1H とは、When(日時)、Where(場所)、Who(対象者)、What(内容)、Why(原因)、How(今後どのように対策するか)、の頭文字をとったもので、情報を整理してまとめるための手法です。また、主観的な感想や推測は排除し、事例が起きた時の状態をありのままに、客観的な視点で記載するようにしましょう。

*詳しくは、こちらの記事もご覧ください。

「転倒・転落を防いで介護事故を減らそう ヒヤリハット事例の活用も」

 

ヒヤリハット事例を分析し、PDCAサイクルに落としこむ

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ヒヤリハット事例を記録したら、その内容をチームや組織で共有しながら、事例が起きた原因について分析し、その対策を考えます。この時、原因を的確に把握できないと、有効な対策を立てられないため、原因を特定する作業が重要になります。これに役立つのが、ヒヤリハット事例が起きた要因(大まかな原因)の分類です。介護現場におけるヒヤリハット事例の主な要因は以下の3つに分けられます。

1)利用者またはスタッフの心身の状態に関連するもの

2)周囲の環境に関連するもの

3)業務の手順に関連するもの

 

ヒヤリハット事例は複数の要因が絡み合って起こることも少なくありません。この分類をもとにして多角的に分析し、原因を特定して対策を立てましょう。

例えば、ある介護施設の入所者であるAさんが、廊下を歩行中につまずいて転びそうになったが、たまたま近くにいたスタッフが支え、転倒せずに済んだというケースがあったとします。この場合、ヒヤリハット報告書の「原因(Why)」として、「Aさんの下肢筋力が以前より弱くなっていた」、「Aさんには歩行介助が必要ないとされていたので、スタッフの見守りが手薄だった」のであれば、1)と3)の要因が重なったことが原因と考えられ、これを受けて今後どのように対策講じるか検討することが必要になります。

こうしたヒヤリハット事例の分析を介護事故の予防に結びつけるには、この手順をPDCAサイクルに落とし込み、継続的に実行することが大切です。PDCAサイクルとは、Plan(計画の立案)、Do(計画の実行)、Check(実行したことに対する評価)、Action(今後に向けての改善)からなる、業務の質をより良くするための循環型のプロセスで、介護の分野に限らず、様々な業種で活用されています。ヒヤリハット事例の活用をPDCAの枠組みで見るとこのようになります。

 

P:原因の分析から対策の立案

D:対策の実行

C:効果の検証と評価

A:検証による評価をもとにした改善策の立案

 

これを見ると、Plan(計画の立案)からAction(今後に向けての改善)まで一巡した後も循環する流れになっていることがわかります。また、ヒヤリハット報告書の書き方もPDCAサイクルによって評価・改善していくと、リスクマネジメントをより良いものにしていけます。

 

PDCAサイクルを繰り返し行うことが重要な理由

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PDCAサイクルは循環型のプロセスですから、一度だけでなく繰り返し実施することが大切です。要介護度や病状など、利用者の状況は時間の経過とともに変わっていくものですが、リスク要因もそれに伴って変わっていきます。PDCAを繰り返し行うことで、利用者の変化による新しいリスクの発見に加え、施設の管理状況や業務手順などの改善すべき点がわかり、持続的な業務の改善が望めます。

これを踏まえて、ヒヤリハット事例の記録・共有から、分析・原因の特定、対応策の計画、実行と評価までの体制を組織内に構築することは、効果的なリスクマネジメントにつながります。また、体制づくりということでは、例えば事業所の中に安全管理チームを設けるのも有効です。このチームを中心にヒヤリハット事例の収集から事故予防の対策の検討をします。チームのメンバーはできるだけ多様な職種で構成すると、多角的な視点で検討が行えるので、施設の現状に合った対策が立てられます。

 

ヒヤリハット事例を活用してリスクマネジメントを強化・改善

介護現場のリスクマネジメントを実践するためには、それぞれの現場(施設)が抱える特有のリスクをよく把握したうえで、継続的に改善を図っていくことが重要です。リスクを的確に把握するには、施設内で起きたヒヤリハット事例を記録・共有することが基本になります。その上で、ヒヤリハット事例の原因を分析してリスクを特定し、PDCAサイクルに沿って対策を行っていきましょう。これを繰り返し行える体制を整えることが、継続的なリスクマネジメントの強化・改善につながります。

 

 

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