「おもてなし」の精神が介護現場を変える

「介護者」として要介護者に接するとき、しばしば「身体的なケア」のほうに大きな関心を払いがちになります。しかし、大切なのは身体的ケアだけではありません。その人が「よりよく生きる」ためにはどうするべきかを考えて接する必要があります。そして、それを支えていくのが「おもてなし」の精神ではないでしょうか。今回は、介護業務における「おもてなし」について考えてみましょう。

ホスピタリティとサービスの違い

レストランの経営者や接客業従事者に求められる要素に、「ホスピタリティ」と「サービス」があります。まずはこの2つの意味について見ていきましょう。

サービスとは、「そこには主従の関係があり、相手が求めるものを提供することを義務とするもの」という意味があります。そのため、対価が発生します。その対価にはさまざまなものがありますが、現代のビジネスの世界では「金銭」であると考えて差し支えないでしょう。

それに対してホスピタリティは、「提供する側の自発的な心遣い、気づかい、おもてなし精神」と解釈されています。例えば、お客様がコーヒーを注文した時、それを過不足なく提供するのが「サービス」であるのなら、ホスピタリティはティースプーンの向きや位置を整えてお出しするなどの「ちょっとした気づかい」を指すといえます。

ホスピタリティの語源は、hospes(ホスペス)です。病気の治療ができる宿泊場所を指しました。そのように考えると、そもそも介護現場には単なる「サービス」ではなく、「ホスピタリティ」が求められてきたということがわかります。

各所で生まれつつある「おもてなし」の介護施設

現在、このような「ホスピタリティ」「思いやり」の精神を重視することを特徴とした介護施設が各所で誕生してきています。

  •  自宅にいるようにリラックスできる環境作り

例えば、「自宅にいるようにリラックスのできること」を目的として介護プランを組み立てているところもあります。また、入居者にはそれぞれ自分の生活のリズムがあり趣味があるのだから、それに合わせた介護プランを組み立てていこうと考えている施設、入居者の希望に合わせて快適なお風呂に入浴させる介護施設もあります。

ただ単に、「体を清潔にすること」「食事をとらせること」だけを目的とした施設ではなく、入居者一人ひとりそれぞれが生き生きと満足して活動できるような工夫がなされているのです。

  •  目でも舌でも楽しめる食へのこだわり

介護食は柔らかさ、呑み込み易さを重視しますが、見た目については重視していなかった施設も、目でも舌でも楽しめるメニューを用意するなど、食へのこだわりも重視されつつあります。

  •  個々のニーズや要望に合わせたアクティビティ

少人数制で一人一人の個性や趣味を生かしたアクティビティに力を入れる施設も増えてきています。笑いヨガや日本の伝統文化 (お手玉など)を取り入れるなど、利用者個々の生きがいを形成するお手伝いに力を入れています。

介護福祉士から見た「おもてなし」を実現するために必要なこととは?

では、介護の現場で「おもてなし」を実施するためには何が必要なのでしょうか。実際に介護福祉士として活躍する人の言葉をそのまま引用してみましょう。

「何をもって、その人にとって最良の介護というのかはとても難しい。例えば、『普段は家で風呂に1人で入っているが、なぜ施設にきたときまで1人でやらなければいけないんだ。施設の人間にやってほしい』という人もいる。私の考え方としては、できないことを手伝い、できることは自分でやってもらうというものだが、その人のニーズとは違うこともある。そのため、おもてなしといってもひと口にはいえない」とのことで、人によって「よい介護」が異なること、「おもてなし」することの難しさがうかがえます。この言葉には共感を覚える人も多いでしょう。

しかし、次のようにも語っています。「施設にもよるが、1人で10人以上を見ることも多いなかで、個々人の要望に寄り添っていくのはとても難しい。ただ、1:1、多くても1:2で介護をすることができるようになれば、個々人の気持ちにも寄り添える。その人が散歩に行きたいと言った時にすぐに散歩に行けるし、細かい希望を聞き出すことができる。給料が上がって私たちのモチベーションが上がったとしても、人手が足りなければどうにもならない。ケアマネとの連携も大事だが、やはり人手」とのことであり、一人ひとりに向き合う時間が長ければ、入居者の気持ちや思いをしっかりと理解して、より行き届いた介護が実現できる可能性が高くなると語っています。

介護現場における「おもてなし」とは

何をもって「よい介護」とするか、「利用者に寄り添うこと」がどこまで行えるのかは、人それぞれ考え方に違いがあります。しかし、「人手があればできることは多くあるし、余裕を持つことがよい介護に繋がる」と考えている人が多いようです。本当にそれだけなのでしょうか?

利用者にとっても介護者にとっても理想的な介護。それは結局のところ、利用者の気持ちや思いをよく理解して、先回りした気づかいができることなのではないでしょうか。

介護の業務改善事例については、こちらでも紹介しています。
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参考:

 

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