見直してみませんか?「傾聴」の大切さ

介護の現場におけるコミュニケーション基本技法のひとつ「傾聴」。

「なんだか古臭い言葉だなぁ、そういえば昔、ヘルパーの資格を取るときのテキストに書いてあった用語だったような気がするけど、要するに利用者さんの話に耳を傾けろってことでしょ?」などと安易に考えている方も多いのではないでしょうか。

しかしこの傾聴、実は大切なルールや目的を持った、介護の重要な基本的技術のひとつなのです。今回はこの傾聴の奥深い役割と意味を再認識してみましょう。

あらためて、傾聴って何?

介護スタッフは、現場でいつも時間に追われ、なかなか利用者と十分なコミュニケーションをとることは難しいのが現実。そのような状況のもとで活用したいのが、利用者の話を聴くことのみに特化したコミュニケーション術、「傾聴」です。

なぜ一方的に話を聴くことが大事なのでしょうか? 実は、話し手である利用者にとって、途中で話をさえぎられたり、会話にいちいち反応されたりすることは一種のストレスになるのです。したがって、自分のペースやロジックで話したいことを話したいだけ話せる環境や機会を提供し、真摯な態度で話を邪魔せずに相槌をとって最後まで聴くという「傾聴」は重要なのです。

傾聴は、利用者の本音を知り、心の奥の悩みや不安・不満を解消できるきっかけをつくれるため、介護における大切なコミュニケーション術として確立されているのです。

傾聴にはしっかりとしたノウハウがある

傾聴で大切なことは、利用者が何を伝えようとしているかを深く推察して、しっかりそのテーマに対応することです。

加齢や病変の影響で、本人の顔の表情や言葉の発音など、表現に対するADL(日常生活動作)の能力が落ちている場合もあります。言葉でうまく表現できず、もどかしさを感じて利用者が焦ってしまっていることもあります。そんなときはしっかりと観察し、表情や目の動き、手指の些細な動きなどにも注意を払い、全身で何を伝えようとしているのか、何を受け止めるべきかを探る作業が求められます。

また、奥ゆかしさや遠慮を美徳として生きてきた高齢者のなかには、なかなか本音を話してくれない人も多く、深層心理を把握するということが必要です。

途中で話をさえぎったり、否定したりすることは絶対にNGです。受け答えの際には終始おだやかな態度を心がけ、威圧感を与えたり自尊心を傷つけたりするような言動は避けましょう。話し手の心に寄り添うという姿勢が大切です。

傾聴時に座るポジショニングも重要です。対面は避け、真横やななめ横に座って話を聴くようにして、威圧感、不安感などを取り払うこともポイントのひとつです。

傾聴とは、単に世間話や愚痴を聞き流すためのものではありません。利用者が何を訴えたいのか、どのように自分の生活環境を変えていきたいのかを察知して、その後の生活の質を向上させるためのきっかけづくりにします。そのため、傾聴の内容は個人情報として慎重に扱いながらも介護データとして残すようにしましょう。

知っていましたか?傾聴ボランティア

傾聴ボランティアという仕事が今、ニーズの増加とともに注目を浴びています。現在のところはあくまでも無報酬のボランティアが携わっていることが多いようです。

忙しい介護スタッフは、話を聴くために利用者ひとりあたりに30分~1時間も時間が割けないのが現実。また、毎日接している介護スタッフ相手にはなかなか話しにくいと感じる利用者も少なくなく、傾聴ボランティアの存在が重宝されているようです。

また、傾聴ボランティアは利用者から傾聴した話について、その人の生命の危険や、緊急の事柄でない限りは基本的に介護スタッフなどの第三者には話さない守秘義務を持っており、利用者の方々のプライバシーも配慮されています。

今後の課題としては、傾聴というカウンセリングの作業が介護保険の適用外のボランティアのままでよいのかという点があるでしょう。なお、傾聴ボランティアは、各市町村の社会福祉協議会などの行政が窓口となって募集や紹介をしているところも多く、問い合わせなども受け付けています。

誰もが傾聴をできるような環境づくりに向けて

何も言わない利用者は、実は何も言わないことでSOSを発信しているのかもしれません。

利用者の心のうちを聴く傾聴は、日々のケアの忙しさに埋もれてしまいがちであり、ボランティアなどに頼らざるを得ない施設も少なくないようですが、ちょっとした時間を利用して、効果的・意識的に傾聴を介護プログラムやスケジュールへ組み込んでいきたいものです。利用者は、話しかけられたり、質問されたりすることをいつも待ち望んでいるはずですから。

 

参考:

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