介護施設の生産性向上のための業務改善実践マニュアル

高齢化時代に突入した日本は、急増とともに多様化している介護ニーズへの対応に迫られています。介護人材の不足も深刻さを増しているなか、根本的な解決策として、介護の現場(施設、事業所)での介護職員の処遇改善、多様な人材の確保育成、人材定着の促進などを図らなければなりません。厚生労働省は、それらを実現するためのキーワードが「生産性向上」であると提言しています。また、生産性向上のためには「業務改善」という具体的なプロセスが必要であると説いています。

介護施設の現場における業務改善を通じて、介護サービスの質を維持または向上し、職場環境の整備を図るための具体策を、厚生労働省のガイドライン*を参考に見ていきます。

業務改善はなぜ必要?厚生労働省の提案する取り組みとは?

今後、ますます介護人材の確保が難しくなる状況のなか、介護現場では限られた人的資源で業務の質を確保し、向上を図らなくてはなりません。そのための方策のひとつが業務改善です。

厚生労働省は、2019年3月に公表した「介護現場革新会議基本方針」において以下の取り組みを提案しています。

1. 人手不足のなかでも質を向上させるマネジメントモデルの構築
介護業務を、利用者をケアする直接的業務と準備、観察、記録、データ作成などを行う間接的業務に分けます。施設や事業所内の課題(やるべき業務メニュー)を見える化したうえでPDCAサイクルを回していくことを示します。

2. ロボット、センサー、ICTの積極導入
介護現場のインフラとしてインターネット環境を積極的に導入し、文書や資料作成に要する時間を短縮化すること、ロボットやセンサーなどを活用して業務負担を軽減化することです。
今後の課題として、事業所によって異なるアプリを使って作成している、介護文書のフォーマットの統一化、現場情報のビッグデータ化が挙げられます。行政、医療機関とリンクした、よりきめ細かいリアルタイムの地域ケアサービスの実現に結びつけることがねらいです。

3. 介護業界のイメージ改善と人材の確保
ロボット、センサーやICTを積極的に導入して間接的業務を行わせることにより、きつい、汚いといった介護業界のイメージを刷新します。同時に、難しいスキルを持たなくてもだれもが活躍できる状況をつくり、 若者世代から勤労意欲のある高齢者まで幅広く人材を受け入れます。介護分野への多様な人材参入へ向けた、底辺の拡大につなげることが求められるのです。

改善活動取り組みのイメージ

具体的な改善活動の取り組みとして、まずは、以下の5つの「S」で始まる「5S」を習慣化し、徹底させましょう。

1. 整理
必要なもの、不要なものを判断し、不要なものを捨てる。保存年限が超えた書類は個人情報保護に配慮し、シュレッダーを使用して廃棄する。

2. 整頓
定位置に置く、定まったものを使う、探す手間をはぶくために手元におく。例えば、利用者用のリハビリパンツは決まった棚のいつも同じ位置に収納し、いつでも取り出しやすくしておくと同時に、収納数量も決めて補充点検をする。

3. 清掃
さまざまな備品や器具類がすぐに正常な状態で使えるように常に点検、整備しておく。施設内を常に片付けておく。特に利用者の動線は転倒事故防止のための保清に注意を払い、水滴が落ちていないか、障害物がないかなどを常に確認する。

4. 清潔
3Sといわれる 「整理」・「整頓」・「清掃」を維持するために、チェックリストで確認する。また、「清潔」と「不潔」をしっかりと認識し、 使用ずみオムツを素手で触らない、ちょっとした掃除でも必ずゴム手袋を使用するなどを徹底する。

5. しつけ
業務上決められたルール、手順を遵守し、しっかりと確認しながら行う習慣をつける。報告、連絡、相談を徹底する。不明点や迷いがある場合はOJTの仕組みのなかで 担当の先輩職員に理解できるまで質問する。手順書を必ず確認する習慣をつける。

見える化の推進も重要

厚生労働省のガイドライン(施設サービス本編(後編)ツール集)では、業務改善の推進にあたって「課題把握シート」「気づきシート」などから課題を抽出することが推奨されています。また、同ガイドラインには「因果関係図」や「課題分析シート」により課題を構造化し、比較的簡単なプロセスで現状分析する方法も紹介されているので、参考になるでしょう。特に、「業務時間見える化ツール」は業務を定量的に把握するという場合にとても便利です。

事例はある?

厚生労働省ガイドライン(施設サービス本編(中編)事例集)には、前述の5Sの導入成功例、3M(ムリ、ムラ、ムダ)削減事例、ICTテクノロジー活用事例 としてのパワードスーツ導入例、タブレット活用事例、OJTの仕組みづくりなど約44の事例集が掲載されています。参照するとよいでしょう。

生産性向上の本当の目的を大切に

介護分野における生産性向上は、一般的な製造業や販売業とは視点が異なります。時間や手間の短縮がゴールなのではなく、介護の質の向上が最大の目標です。さまざまな取り組みを積極的に進めることによって介護の質は向上します。介護職員が日々の仕事を楽しくこなしながら、社会貢献への意識を持ち生きていけること、また、利用者が心身ともに豊かなよりよい人生を送りたいという意欲を持てることこそがゴールなのです。そのためには処遇改善を含め、介護職員が名実ともに豊かな条件のもとで働ける環境整備を、国や業界が一体となってすすめていくことが、大切といえるでしょう。

 

参考:

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