ここが変わった!介護報酬改定2021<特養編>

3年ごとに改定される介護報酬の、最新の改定(令和3年度介護報酬改定)が2021年4月1日に施行されました。今回の改定では、世界的に猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症や、気象変動や地震などの頻発する大規模災害への対策を主眼に、全5項目の大きな改定の柱を設けています。最新の改定が、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、以降「特養」)にどのような効果や改善をもたらすのかを見ていきます。

主な改定ポイントまとめ

  • 基本報酬が引き上げられる

改定率は、全体で0.7%の上昇となっています。今後、財政のひっ迫が懸念される介護保険制度ですが、今回の改定では必要な部分にはしっかりと補てんを行い、また、できる限り無駄な部分を省いていく予算組みが行われているようです。

  • 認知症専門ケア加算の新設、認知症取り組みの情報公開、認知症介護基礎研修の受講の義務づけ

介護サービス事業者に、介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者について、認知症介護基礎研修を受講させるために必要な措置を講じることを義務づけ、認知症ケアに関する専門研修修了者に対する加算が組み込まれました。専門研修を修了した者が介護サービスを提供した場合に算定できます。施設での介護スタッフによる利用者虐待といった悲惨な事象を防ぐためにも有効でしょう。専門研修にはeラーニングを活用するなどして、受講しやすい環境を整えることが望まれています。

  • 看取りへの対応の充実、看取り期における本人の意思に沿ったケアの充実

特養では、中度、重度者や看取りへ対応の充実を図るために看取り介護加算算定を見直し、現行の死亡日以前30日前からに加えて、死亡日以前45日前からについても新たに評価する加算区分を設けました。また、あわせて本人の意思を尊重した医療やケアの方針の決定を支援することも明記しています。

  • リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取り組みの包括的推進

自立支援と重度化防止のための取り組みを促しています。生活機能向上連携加算では、リハビリテーション専門職が訪問せずに、ICTを活用(テレビ電話など)して関与した場合の新たな評価区分が設けられました。これにより、外部の専門職と連携して積極的に自立支援、重度化防止に取り組むことができるようになります。また、口腔衛生や栄養摂取方法の取り組みを一体化して推進するために、口腔衛生の管理体制整備や栄養マネジメントなどに対しての加算も見直されました。

  • 新しい科学的介護情報システムLIFE情報の収集・活用を評価する加算を創設

高齢者の状態、ケア内容等の科学的介護データベースとして立ち上げられていたCHASEは、2017年度から運用されている通所・訪問リハビリの質の評価データ収集等のデータベースVISITと統合され、新名称をLIFEとしてこの4月からスタートしています。厚生労働省が主導して現在構築中のこのシステムによって、近い将来、ケアに関する情報がリアルタイムで共有できるようになります。例えば、利用者のADL、栄養、口腔、嚥下(えんげ)、認知症などへの対応(ケアのあり方)情報を、同じようなケアが必要な別施設の介護スタッフが業務に活用できるようになるのです。PDCAサイクルを推進し、介護の質の向上を図る意味で、LIFEの情報は、介護事業所が新たに科学的介護に取り組む際に必要となる、もっとも基本的情報となるでしょう。

そこで、このLIFEを活用しての情報の収集・活用に加算が設定されており、積極的に利用することを促しています。

  • 寝たきり予防・重度化防止のためのマネジメントの推進

特養や介護付き有料老人ホームなどの介護施設では、入居するということにのみ本人や家族の意識が傾きがちで、入居後のケアに関する施策が不十分だったといえるでしょう。入居者の尊厳の維持、自立支援・重度化の防止などの観点から自立支援促進加算が新設されました。医師の指示管理のもと、リハビリテーションや機能訓練などのケアを実施しながら定期的にアセスメントを行い、ケアマネジャー、介護職員などと連携してケアプランを策定するといった取り組みを評価する加算です。LIFE(旧CHASE)との連動も推奨されています。

また、今回の改定では、廃用症候群の典型例である寝たきりの利用者の褥瘡(じょくそう)対策にも踏み込んでいます。褥瘡マネジメント加算、排せつ支援加算の見直しも設定され、現場の問題点をより一層拾い上げ、解決していこうという姿勢がうかがわれます。また、ADL維持等加算の対象も拡充され、特養が含まれるようになりました。

  • ICTの活用を通じた業務効率化・業務負担軽減

見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算が見直されました。夜勤の介護スタッフの配置基準緩和や業務負担軽減のため、夜間の介護ロボットの導入がより促進されるでしょう。センサーによる離床などの対応に加えて、インカム等のICT導入も加算評価に加えられました。

特養での利用者の生命の質を高めるためには?

特に都心部や市区町村運営の特養では、過酷な入居待ちの現状が問題視されています。要介護度3以上が入所条件である特養では、「入所すること」が利用者とその家族には重視されがちです。しかし、特養に入所できたら安心というわけではありません。特養での利用者の日常生活を振り返る時期が来ているのではないでしょうか。特養の利用者にとってのQOLには自立に向けて回復していくという「生活の質」と、特養で人生を終えるための「死の質」があります。今回の介護報酬改定では、日常生活の質と、終末期に向けての看取り対応の充実=死の質の、どちらをも高める配慮が反映されたといってよいでしょう。また、特養に多い、要介護4~5の寝たきりの利用者を苦しめてきた尊厳の保持、自立支援、重度化防止、褥瘡などの廃用症候群への積極的な対策が加算として明確化されました。状況が改善されようとしている点は、今回の対特養施策の大きな特徴ともいえるでしょう。

ICT導入で変革!利用者と介護スタッフの安全と安心

今回の改定では、介護ロボットや見守り機器などに加え、インカムの使用やスマートフォン、介護記録ソフト活用などのICT導入への評価がなされています。また、テレビ電話等の活用、情報通信機器を用いたテレワークなどによる医師や看護師などとの積極的連携も促されています。

これらの大きな意味合いとしては、2025年問題を目前にした介護人材不足に対する解決策への期待が大きいでしょう。特に若手の介護人材をどのように確保していくかについて、国レベルで速やかに対応しなければならない段階にきていることがわかります。

介護の仕事は過酷です。収入も他業種と比較すると低めに推移しており、職場の人間関係の悪化による離職も多い状況です。また、職場ストレスから介護スタッフの利用者虐待やケアの放棄なども問題になっています。

こうした状況の改善策のひとつに、ICT化があげられるでしょう。現場の介護スタッフがいかにスムーズに、スマートに仕事に取り組んでいけるかという、今後の介護業界においての働き方改革の最大のカギとなってくるのがICT化といえるのではないでしょうか。

ウィズコロナ時代の特養のあり方を示す今回の介護報酬改定

ウィズコロナ時代に入り、特養の介護のあり方も大きく変わってきています。

まずはクラスターが発生しないような徹底した感染対策の継続です。利用者はもちろん、外部から通勤してくるスタッフにはより高い意識と自己管理が求められます。また、業務のICT化を加速して感染リスクの軽減を図ることも大きな課題です。

介護度の高い利用者が終(つい)の住み処として考える特養のあり方は、利用者の尊厳を守り、生活の質を高め、看取りに至るまで精神的に充足感を与えるものでなくてはなりません。

そのカギを握るのは、介護人材の確保、育成です。確保した人材をいかに大切に育成して、快適な環境のもとで長く働いてもらうかという事業者の企画力、運営力が、今後の勝ち組、負け組の分岐点になるのではないでしょうか?

 

参考:

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