介護業務改善
転倒・転落予防策とは?原因や違いなど実際の事例を紹介
介護施設や在宅介護の現場で頻発する転倒と転落。一見似ているように思われますが、発生する状況や原因、リスクは異なります。
転倒は、主に歩行中や立ち上がり動作でのバランス崩れによって起こり、骨折や打撲を引き起こしやすいのに対し、転落はベッドや車椅子など高さのある場所から落下する事故で、頭部外傷など重大な危険につながります。
これらを正しく区別し、原因を理解することで、効果的な予防策を講じられます。本記事では、転倒と転落の違いや主な原因、さらに実際の事例を交えながら、介護現場で実践できる予防策をわかりやすく解説します。
転倒と転落の違いとは?危険性などもあわせて解説

介護施設では転倒と転落という言葉が良く使われます。両者は意味やリスクが異なります。
どちらも事故防止の介護計画や予防策を立てるうえで重要な概念ですが、混同すると対応ができない恐れがあります。違いを正しく理解することが、現場での事故予防やインシデントを防ぐ重要な要素です。
転倒とは?
転倒とは、立ち上がりや歩行中にバランスを崩して倒れてしまうことを指します。高齢者に多い要因としては、筋力やバランス感覚の低下、認知症による判断力の低下、服薬の副作用などが挙げられます。
また、床の滑りやすさや段差など環境要因も関係します。転倒による怪我は骨折や打撲が多く、特に大腿骨頸部骨折は寝たきりにつながるリスクがあるため、介護現場では重点的に予防策が求められます。
具体的には、歩行補助具の活用、定期的な運動による筋力維持、転倒リスクスコアによる評価などが大切です。転倒は日常的に発生しやすい事故だからこそ、早めの予防とチーム全体での取り組みが重要です。
転落とは?
転落は、ベッドや車椅子、階段など高さのある場所から落ちる事故を指します。転倒に比べると発生頻度は少ないものの、頭部外傷や脊椎損傷など重大事故につながりやすい点が大きな特徴です。
夜間、ベッド柵を越えて降りようとした際や、車椅子からの移乗時に起きやすく、職員が目を離した一瞬で事故につながることもあります。転落事故は家族への説明責任や施設の信頼性に直結するため、防止策を講じることが極めて重要です。
具体策としては、ベッド柵やセンサーの活用、離床アラームの導入、職員間のリスク共有などがあります。転落は見守り体制の不十分さが背景にあるため、仕組みづくりでの対応が求められます。
違いを理解することで防止策が変わる理由
効果的な防止策を選ぶには、まず転倒と転落の違いを理解することが重要です。例えば、転倒対策では主に歩行訓練や環境整備、転倒リスクスコアによる個別評価が中心となります。
一方、転落対策ではベッドや車椅子からの移乗場面を想定し、センサーや見守りカメラといった機器の導入が重要です。
同じ「倒れる・落ちる」事故であっても、背景要因や対応策は異なるのです。この違いを現場で意識することで、事故発生率の低減やインシデント対応の迅速化につながります。さらに、見守りカメラを活用すれば転倒・転落の発生前後を記録でき、原因分析や家族説明の根拠としても役立ちます。
介護現場で転倒・転落が起こる主な原因

介護施設で発生する転倒・転落事故には、さまざまな要因が複雑に関わっており、主に以下の3つがあります。
- 利用者側の要因
- 環境側の要因
- 職員側の要因
それぞれが単独で事故を引き起こす場合もあれば、複数の要因が重なってリスクが高まることも少なくありません。事故防止のためには、これらの観点を意識して原因を整理し、それぞれに合った予防策を講じることが大切です。
利用者側の要因(筋力低下・認知症・服薬影響)
高齢者の転倒・転落には、利用者自身の身体的・認知的な状態が影響します。加齢に伴う筋力低下やバランス感覚の衰えにより、立ち上がりや歩行が不安定になりやすくなります。
また、認知症の利用者は判断力の低下や見当識障害から、不意に立ち上がったり危険な行動を取ったりすることがあり、リスクが高まります。
服薬によってふらつきや意識レベルの低下が起きる場合もあります。こうした利用者側の要因は個人差が大きいため、日々の観察を通じて変化を把握し、リスクスコアの評価や個別の予防計画に反映させることが重要です。
環境側の要因(段差・照明不足・ベッドや車椅子の配置)
転倒・転落事故は、施設内の環境によっても左右されます。床の段差や滑りやすいマット、照明不足で足元が見えにくい場所は、事故の典型的なリスク要因です。
また、ベッドや車椅子の位置が不適切だと、移乗の際にバランスを崩しやすくなります。共用スペースに物が散乱していると、通行の妨げとなり転倒につながります。
環境側の要因は比較的改善しやすいため、定期的な環境点検や設備の見直しが重要です。照明の明るさを調整する、床材を滑りにくい素材に変更する、動線を整理するなどの取り組みは、小さな工夫でも大きな予防効果をもたらします。
職員側の要因(情報共有不足・観察の目が届かない時間帯)
介護職員の関わり方も、転倒・転落の発生に直結します。多忙なシフトや夜勤体制では、利用者一人ひとりへの観察が行き届かず、事故のリスクが高まります。
また、情報共有が不十分な場合、前のシフトでの利用者の変化が次の職員に伝わらず、対応が遅れることがあります。
人に依存する体制では限界があり、属人的な対応に偏りやすくなります。そのため、職員側の要因を減らすには、情報を確実に共有できる仕組みづくりと、目が届きにくい時間帯を補う体制の整備が重要です。
転倒・転落事故がもたらす影響

介護現場で起こる転倒・転落事故は、一瞬の出来事であっても、その後に大きな影響を及ぼします。利用者本人の身体的なダメージはもちろん、家族の不安や施設全体への信頼低下、さらには職員の心理的な負担や対応コストが膨らみます。
事故を未然に防ぐことが重要であり、原因を正しく理解し、組織的な仕組みづくりを進める必要があります。
利用者本人への影響(骨折・生活意欲の低下)
転倒・転落によって直接的な影響を受けるのは利用者本人です。特に、高齢者では骨折や頭部外傷のリスクが高く、長期の入院や寝たきりにつながることも少なくありません。
身体的なダメージだけでなく、「また倒れるかもしれない」という恐怖心から、歩行や活動そのものを避けるようになり、生活意欲の低下を招くこともあります。
さらに、筋力の低下や介護の進行を引き起こす悪循環となり、本人のQOL(生活の質)を損ないます。利用者の安全を守ることは、身体的な健康だけでなく心理的な安心感を維持するためにも重要です。
家族への影響(不安・信頼低下・クレームリスク)
事故は利用者だけでなく、その家族にも大きな影響を与えます。家族は「施設に任せて大丈夫だろうか」という不安を抱き、施設への信頼感が揺らぎます。
骨折や頭部外傷など重度の事故が起こった場合、家族からのクレームや説明責任が発生し、関係がこじれることも珍しくありません。
インシデント報告や介護計画が整備されていても、家族が納得できる形で説明できなければ、信頼を回復するのは難しいのが現実です。つまり、転倒・転落は医療的リスクだけでなく対人関係上のリスクでもあり、家族との信頼関係を維持するためにも未然防止の仕組みが求められます。
施設への影響(事故報告・対応コスト・職員の心理的負担)
転倒・転落事故は施設全体にも大きな負担をもたらします。事故が起こると事故報告書の作成や行政への提出が必要となり、職員の事務作業が増加します。
治療費や補償に関する調整が発生すれば、経済的なコストも無視できません。さらに、職員自身が事故に責任を感じて精神的に追い込まれることもあります。「もっと見守れていれば」と自分を責め、結果としてモチベーション低下や離職につながる場合もあります。
事故は利用者だけでなく、施設の運営や職員の働きやすさに直結するため、仕組みでリスクを減らすことが重要です。
転倒・転落防止に向けた基本的な予防策

転倒・転落事故を防ぐためには、現場職員の気付きや努力に頼るだけでは限界があります。以下で解説する予防策を実践することで、事故を未然に防ぎ、利用者と家族に安心感を与えられる施設運営につながります。
環境整備
転倒・転落の重要な予防策は、施設環境の見直しです。段差や滑りやすい床、暗い廊下などは典型的なリスク要因であり、事故の多くはこうした環境から発生します。
段差をスロープに変える、床材を滑りにくい素材にする、夜間は足元を照らすセンサーライトを設置するなど、小さな改善でも効果は大きい傾向にあります。
また、ベッドや車椅子の位置が適切か、通路に物が置かれていないかを日常的にチェックすることも重要です。環境整備は取り組みやすく、即効性のある予防策として位置付けられます。定期的な巡回点検を仕組み化することで、職員の負担を増やさずにリスクを減らせます。
職員間でのリスク情報共有
転倒・転落は、利用者の体調や行動パターンによって危険度が変わります。そのため、職員間で誰がどのような状態にあるのかを正確に共有することが欠かせません。
特にシフト交代時は、前の勤務での観察内容が次の職員に伝わらないと、リスクが見過ごされやすくなります。共有方法を口頭やメモに頼るのではなく、日誌やデジタルツールで記録を一元化することで、情報の抜け漏れを防ぐことができます。
転倒予防と転落予防の違いを踏まえた取り組み
転倒と転落は似ているようで発生要因が異なるため、予防策も区別して考える必要があります。転倒は歩行中や立ち上がり時に起こるため、歩行補助具の使用や筋力トレーニング、生活動線の整理が重要です。
一方、転落はベッドや車椅子など高さのある場所からの落下で発生するため、ベッド柵やセンサー、見守りカメラといった機器の導入が効果的です。
転倒と転落で同じ対策をすると不十分になりがちで、かえって事故リスクを見逃す恐れがあります。違いを理解して対策を講じることで、利用者の安全性がより高まり、施設全体の安心感を高められます。
介護現場での実際の転倒・転落事例

転倒・転落事故は、日常のささいな場面で発生することが多く、予想外のタイミングで起きる点が特徴です。以下では、介護現場で見られる事例を紹介します。どれも現場で共有すべき重要なインシデントであり、再発防止に向けた仕組みづくりの参考となります。
夜間トイレ移動中の転倒
夜間、利用者がトイレに行こうとして立ち上がった際に転倒する事例は多く見られます。暗い中で足元が不安定になったり、眠気でふらついたりすることが原因となります。
また、ナースコールを使用せず自力で移動してしまうケースも少なくありません。このような転倒は骨折や頭部外傷につながりやすく、重大事故へ発展するリスクがあります。
防止策としては、夜間の動線に足元灯を設置すること、ベッド周囲にセンサーや見守りカメラを導入することで、職員が早期に対応できる体制を整えることが効果的です。
ベッドからの転落
ベッド上で体位を変えようとした際や、柵を乗り越えて降りようとした際に転落する事例も多発しています。
特に、認知症のある利用者は「ここに段差がある」という認識が曖昧なため、本人は無意識の行動として転落してしまうことがあります。ベッドからの転落は、頭部や脊椎への深刻な外傷を招く可能性が高く、家族への説明責任も重くのしかかります。
対策としては、ベッド柵やマットの設置、必要に応じて低床ベッドを使用するなどの環境整備に加え、離床センサーや見守りカメラで行動を早期に察知できる仕組みが効果的です。
車椅子移乗時の転倒
車椅子からベッドや椅子に移る際にバランスを崩して転倒する事例もあります。介助が不十分なときや、利用者自身ができると思い無理に移乗しようとしたときに起こりやすい事故です。
軽度の怪我で済むこともありますが、転倒後に自信を失い、以降の移動を拒むようになって生活意欲が低下するケースもあります。
防止のためには、介助者が必ず声をかけてから支援することや、移動方法を統一して職員間で共有することが重要です。さらに、見守りカメラで事故発生の前後を記録しておくと、原因分析や研修にも活用できます。
見守りカメラで実現する転倒・転落防止の仕組み

転倒・転落を完全にゼロにすることは難しいものの、仕組みを整えることで大幅にリスクを減らすことは可能です。従来の巡回や声がけだけでは限界があり、特に夜間や少人数体制では目が行き届かない時間が発生してしまいます。
そこで注目されているのが見守りカメラの活用です。見守りカメラを導入することで、施設全体で安全を支えるための仕組みを実現します。
起き上がり・離床検知をナースコールで即時通知
見守りカメラのセンサーが起き上がり・離床を検知すると、ナースコールとして即時にお知らせします。定時巡回と併用しながら、カメラ通知で異変の早期発見・迅速対応が可能です。
これにより、転倒・転落などの事故を未然に防ぎやすくなります。認知症の方や自力でトイレに向かう行動も早期に把握でき、定時巡回とセンサー連動の二重の見守りで安全性を高めます。
夜間・少人数体制でも「安心して見守れる」環境を構築
介護現場では夜間の人員体制が少なく、どうしても一人あたりが見守れる範囲に限界があります。結果として「別の利用者に対応している間に事故が起きてしまった」という事態も珍しくありません。
見守りカメラを導入すれば、少人数体制でも複数居室を同時に確認できるため、監視の抜け漏れを防ぐことができます。
職員は「常に見守ることができている」という安心感を得られ、心理的な負担も軽減されます。夜間でも安全を確保できる仕組みとして、見守りカメラは大きな役割を果たします。
プレ録画で事故の前後を記録し、原因分析に活用
万が一転倒・転落事故が発生した場合でも、見守りカメラのプレ録画機能があれば状況を正確に把握できます。事故が起きる30秒〜数分前から映像が記録されているため、なぜ転倒したのか、環境に問題はなかったかといった原因分析に活用できます。
再発防止策を立てやすくなるだけでなく、家族への説明にも客観的な根拠を示すことが可能になります。主観や記憶に頼らない説明は、家族からの信頼を維持するうえで大きな効果を発揮します。プレ録画は単なる記録機能ではなく、現場の学びや改善につながる重要な仕組みといえるでしょう。
まとめ:転倒・転落の違いや原因を理解し仕組みで事故を防ごう

転倒と転落は一見似ていますが、発生状況やリスクが異なり、求められる防止策も違います。利用者の筋力低下や認知症、環境整備不足、情報共有の欠如など、複数の要因が重なって事故は起こります。
こうした事故は利用者本人の健康だけでなく、家族の不安や施設の信頼低下、職員の心理的負担にもつながるため、未然防止が大切です。環境の改善や職員間でのリスク共有といった基本的な取り組みに加え、見守りカメラなどの仕組みを導入することが重要です。
リアルタイム検知やプレ録画による分析が可能になれば、事故を防ぐだけでなく、家族説明や研修にも活用できます。
違いと原因を正しく理解し、仕組みで支える体制を整えることが、安心できる施設づくりの第一歩です。
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