介護ヘルパーの時給は適正なのか?

厚生労働省賃金福祉統計室が発表した「賃金構造基本統計調査」の「短時間労働者の職種別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」には、さまざまなアルバイト、パートタイマーの時給が記載されています。それによると、訪問介護を行うホームヘルパーの時給(2016年、以下すべて同様)は1,394円、施設介護を行う福祉施設介護員の時給は1,110円とのことです。また、ケアマネージャーは1,358円、看護師は1,696円、理学療法士・作業療法士は2,511円となっています。

地域や企業の違いを考えると、これらの数字は参考程度ではありますが、介護スタッフの時給は実際のところ安いのでしょうか。それとも高いのでしょうか。

東京では訪問介護登録ヘルパーの時給が3,000円オーバーのケースも

人手の確保が難しい訪問介護のヘルパー。その第一線の実働部隊である登録ヘルパーの時給が、首都圏で高騰しているそうです。特に、主婦ヘルパーが就業を嫌う土日や祝日の労働力確保は、事業所の存亡にも関わる切実な問題となります。そのため、訪問介護の利用者が多く、なおかつ介護関連の事業所が林立するエリアでは、身体介護の報酬時給について3,000円オーバーの時給設定をする事業所も現れています。しかも、時給の上昇傾向は当分の間続きそうです。

その反面、福祉施設介護員の時給1,110円は、「高校生のコンビニのバイトと変わらない」という声があるように、かなりの低額感があります。施設では夜間の勤務者の確保が課題となっているため、夜勤ヘルパーの賃金については1勤務2万円超えの報酬設定も見られますが、夜勤ができない介護スタッフやデイサービスの従事者には、今後なんらかの対応が必要かもしれません。

ヘルパーの移動時間は労働時間になる?

訪問介護の登録ヘルパーの過酷な勤務状況を考慮すると、上記の時給設定が適正かどうかについてはさまざまな見方があります。

例えば、登録ヘルパーの移動時間を労働時間ととらえるかどうかという問題があります。厚生労働省は都道府県労働局、労働基準監督局と連名で「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」というパンフレットを作成、WEB上でも公開しています。これによると、事業者が利用者宅でのサービス時間のみを労働時間としているケースが多い現状に反して、利用者宅から別の利用者宅への移動や、利用者宅と事業場の間の移動は労働時間に該当すると明記しています。労働時間は社会保険にも影響があるところですが、現状としては事業所の見解はまちまち。また、本来ならば6割の報酬補償が義務付けられている当日キャンセルの賃金保証も各社で対応がまちまちであり、なかにはゼロの事業所もあるようです。

過酷なヘルパーの日常とキャリア格差不満

事業所によっては、正社員が出勤していない土日、祝日は事務所が閉鎖され、登録ヘルパーが休憩のために立ち入ることができず、待ち時間をスーパーやコンビニのイートインコーナーなどで過ごさなければならないというケースがあります。

また、事業者は労働力を確保するために目いっぱいの時給額を提示したいと考え、初任者研修を終えたばかりの新人と、すでに介護福祉士の国家資格を取得しているヘルパーが同じ時給というケースも少なくありません。それが不公平感や将来に対する不安、モチベーションの低下につながると、転職や離職の原因となってしまいます。

今後は非正規社員のヘルパーに対しても、正社員と同様に個別の昇給設定や面談の導入が望まれます。事業所のなかには、累積の勤務時間などが時給アップに反映される制度を取り入れているところもありますが、行政からの働きかけがほしいところです。

介護ヘルパーの未来は明るいか?

介護職員処遇改善加算は介護職を将来性がある安定した職種にするための制度で、介護関連の企業がスタッフのキャリアアップや職場環境の改善に取り組むことを条件に報酬の上乗せ費用が支給されます。これによって、現在、介護職は年間約1~3万円あまりの加算金を受け取っています。

さらに2017年12月には、政府が約1,000億円規模の財源を投入し、2019年10月から勤続10年以上の介護福祉士に月額平均約8万円の賃金加算を行うことを閣議決定しました。実現にはいくつものハードルがあるようですが、今後はこのような政策をベースに、介護職の賃金体系が画一的なものではなく、スキルや経験が反映されるようになると考えられます。介護保険という大切な社会保障を基盤にしたビジネスなので、すべての利用者に対して均一かつ質の高いサービスを提供することが大前提ですが、企業間の自由競争という観点から考えると、ケアマネからご指名での依頼が殺到するような、高給取りのカリスマヘルパーが出現するかもしれません。

 

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