インシデントとヒヤリハットの違いとは 介護事故を減らすために

介護の現場では、ヒヤリ、ハッとするようなことから介護事故まで、利用者の安全を脅かすリスクが日々の業務の中に潜んでいます。介護現場のリスクマネジメントでは、介護事故をどう予防するかが大きなポイントになります。

 

そこで有効とされるのが、『ヒヤリハット事例』の記録・分析・報告です。

介護現場のリスクマネジメントのための『介護事故』『ヒヤリハット』『インシデント』の概念や、その分類レベルなどについて考えます。

 

 

介護事故の定義と報告義務とは

介護事故とは、介護サービスのスタッフが利用者へのケアやサポートが不適切だったり、間違った方法で提供したことで、利用者に身体的もしくは精神的な苦痛や障害を与えたことを指します。

具体例として、間違った薬の投与や、間違った食事の提供などがあげられます。

 

介護事故が起きた場合、その内容によっては国の定めにより、介護事業所から市区町村に報告する義務があります。

以前は、その基準や様式が自治体ごとによりさまざまでしたが、2021年の「介護報酬改定に関する審議報告」において、事故報告の基準や様式が標準化されました。

これによって、死亡事故と医師の診断を経て治療が必要になった事故は、すべて報告の対象となりました。

 

上記以外の事故の報告については、自治体ごとで基準が異なります。

例えば、大阪市では負傷等にいたった事故や災害によるサービスへの影響、感染症や食中毒、利用者の処遇に影響するスタッフの法令違反等による事件を、報告すべき事故の対象としています。

 

 

事故一歩手前の事象はインシデント? ヒヤリハット?

iStock-1345621251.jpg

 

介護事故を未然に防ぐためには、事故につながるリスクに気づき、排除していくことが重要です。

そこで注目すべきなのが、実際には被害にならなかったが、一歩間違えると事故になっていたと考えられる、ヒヤリ、ハッとするような事象です。

そうした事象を『インシデント』や『ヒヤリハット事例』と呼ぶことが多いですが、正確には内容が異なります。

 

インシデントとヒヤリハットの両方とも、安全を脅かすリスクの存在を示すという点では共通しますが、深刻さや重要性の違いがあります。

インシデントは実際に起きた異変や事故、ヒヤリハットは事前の発見で危機を回避できた事例を指します。

業界や事業所によっては事故(アクシデント)に対し、事故一歩手前の事例としてインシデントを使うケースもありますが、介護現場では報告義務や被害のあるなしに関わらず、実際に発生した事故やトラブルと区別し、事故にいたる潜在的な危険性としてヒヤリハットを使うことが多いようです。

 

 

ヒヤリハット事例の報告は事故予防の入口

このように、ヒヤリハット事例は利用者に被害を与える前に気づき、被害を未然に防いだものであり、実際の被害をともなう介護事故と区別することが非常に大切です。

具体的なヒヤリハットの事例としては、施設の特定の場所で利用者が転倒するリスクがあることに気づき、すぐに手すりや滑り止めマットなどを用意して転倒を未然に防いだといったケースなどです。

 

ヒヤリハット事例の記録や報告に法的義務はありませんが、ヒヤリハット事例はいわば「事故の芽」ですから、介護事故と同様に組織内でこれを記録・報告・共有することは、事故予防の入口になります。

また、ヒヤリハット事例の重要度に基づいたレベル分類をしておけば、事案の再発防止策の検討や事故を予防するのに役立ちます。

 

ここで、介護現場におけるヒヤリハット事例のレベル分類の例を紹介します。

レベル0 不安全行動:

洗面所の床に誰かが水をこぼしたままになっており、利用者が足をすべらせたが、近くにいたスタッフが体を支えたので転倒せずに済んだ

レベル1 被害のない事故:

洗面所で利用者が足をすべらせて転倒したが、ケガはなかった

レベル2 軽微な事故:

洗面所で利用者が転倒し、すねを打撲した

レベル3 重い事故:

洗面所で利用者が転倒し、足の骨を骨折した

 

* 数字が大きくなるほど事故の重要度が増します

* レベル3は通常、報告義務のある介護事故に該当します。レベル2についても自治体によって報告義務の対象であることが多いので、事業所のある市区町村HPなどでご確認ください。

 

事業所内でヒヤリハット事例を共有・分析するためには、介護事故報告書とは別に、記録・報告用のフォーマットをつくることが必要になります。

フォーマットは、事例ごとに5W1H(いつ・誰が・どこで・どのような状況で・どのような理由で・どのような被害があった)と分類レベルを明記できる書式にしましょう。

 

 

ヒヤリハット事例の記録・共有が事故予防の基本

iStock-1395019709.jpg

 

ヒヤリハットと事故の違いは、被害を未然に防ぐことができたか、実際に被害が発生してしまったかにあります。

誰かが気づいたヒヤリハット事例に対処することで、将来起こり得る事故を減らすことができるのです。

そのためには、専用のフォーマットをつくり、組織全体でヒヤリハット事例を記録・共有することが欠かせません。

 

介護事故報告については統一されたフォーマットがあるものの、介護事業所の施設の種類や提供するサービスによって業務にともなうリスクが異なるため、安全管理のあり方も違ってきます。

 

事業所の実情にあったヒヤリハット事例の報告の仕組みを整備し、事例を積極的に報告・共有することが、安全な介護サービスの提供とサービスの質の向上につながります。

 

 

関連記事

  個人情報保護方針はこちらをご確認ください