窒息や誤嚥性肺炎につながる誤嚥を防いで、介護事故を減らそう

高齢者施設における介護事故の中で、転倒・転落に次いで多いとされる誤嚥。窒息や誤嚥性肺炎、最悪は死亡という重篤な事態につながります。これを避けるためには予防の徹底と発生時の適切で速やかな対処が重要です。誤嚥が起きる原因と予防法、発生した場合の対処法を知り、介護事故を減らしましょう。

 

誤嚥事故を予防するべき理由

介護事故とは介護サービスの提供中に起きる事故です。介護労働安定センターによると、2014年から2017年の4年間で厚生労働省に報告された介護事故のうち、事故の種類としては「転倒・転落・滑落」が65.6%と最も多く、次いで「誤嚥(ごえん)・誤飲・むせ込み」が13%を占めました。誤嚥・誤飲というのは、むせ込みなどによって飲食物が気管に入ってしまう状態のことです。

誤嚥・誤飲等(以下、誤嚥)による事故は、深刻な事態を招くことが少なくありません。誤嚥が招く健康被害としては、窒息や誤嚥性肺炎などがありますが、いずれも高齢者の死亡原因では多くを占めています。

口や喉に食べ物などが詰まるなどして、息ができなくなるのが窒息です。窒息状態に陥ると体や生命に深刻なリスクがおよび、呼吸が止まってから3分を超えると死亡の危険性が高まります。死亡率は窒息から10分経過で50%、15分以上では100%といわれています。

誤嚥性肺炎は高齢者に多い病気で、飲み込もうとした飲食物やだ液が、食道ではなく気道や肺に入ってしまうことで起きます。誤嚥した時に咳をして飲み込んだものを吐き出せればいいのですが、十分に出せないと残ったものが感染源となって肺炎を発症します。2016年の人口動態調査によると、肺炎は65歳以上の死因で第4位、80歳以上では第3位となっています。

誤嚥にはこうしたリスクがあるため、介護現場には食事をする時など、誤嚥事故が起きやすい状況において、しっかりとした見守りと発生に備えた救急措置体制が必要です。

 

誤嚥事故の原因と発生しやすい状況、リスクの高い人とは

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誤嚥事故は飲食物などをうまく飲み込むことができないことで発生します。原因としては唾液が少なくなっている、歯の欠損があって食べ物をよく噛めない、食べ物を飲み込む(嚥下)機能や咳反射の機能が弱くなっている、といったことがあり、このような状態や症状のある人は誤嚥のリスクも高くなります。

誤嚥事故が最も発生しやすいと考えられるのが食事などの飲食時です。食べ物で最も誤嚥しやすいは餅ですが、高齢者の場合、上記のように飲み込む機能が低下することで、若い人なら詰まりにくい食べ物も誤嚥するケースが報告されています。誤嚥事故が発生する具体的な状況としては次のような事例があります。

・飲食時の咳き込み、むせ込み

・季節のイベントなどで普段食べないようなものを食べた

・口腔機能・嚥下状態に適さない形態の飲食物を提供された

 

誤嚥事故の予防と対処のしかた

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誤嚥事故を予防するための基本は、利用者一人ひとりの飲み込む機能を把握した上で見守ることです。食事やおやつは利用者に適した形態で提供しましょう。いわゆる介護食は食べる機能に合わせていくつかの種類(形態)に分けられます。農林水産省が推奨する介護食の枠組み「スマイルケア食」では、噛むのが難しい人を「黄マーク・4段階」、飲み込みが難しい人は「赤マーク・3段階」で食事の形態を分類しています。この区分を具体的な食品の形状で見ると次のようになります。

 

<スマイルケア食/黄・赤マーク分類>

・黄5:容易に噛める/例)普通~やわらかいご飯、焼き豆腐、厚焼き卵

・黄4:歯ぐきでつぶせる/例)柔らかいご飯~全粥、木綿豆腐、だし巻き卵

・黄2:舌でつぶせる/例)全粥、絹ごし豆腐、スクランブルエッグ

・黄1:噛まなくて良い/例)ペースト粥、具のない茶碗蒸し、粒のあるペースト状の食品

・赤2:少し咀嚼(そしゃく)して飲み込める:まとまりのよいおかゆ状

・赤1:口内で少しつぶして飲み込める:均質なゼリー、プリン、ムース状

・赤0:そのまま飲み込める:均質なゼリー状

 

これらが介護食を選ぶ際の目安となる分類ですが、食べる機能が気になる利用者さんの場合、まずは医師や歯科医師、管理栄養士等の専門職に相談の上、指導に従って選択するようにしてください。

また、飲食中は咳やむせ込みといった誤嚥のサインを見逃さないようにしましょう。飲食時に咳込んだり、むせたりした場合の対処法を紹介します。

 

<軽い咳の場合>

・食事をいったん休止します。

・前屈姿勢をとってもらい、「咳をしましょう」と声がけしながら、下から上へ背中をさすり、咳をしやすくするために補助します。

・治まらない場合は、背中をトントンと軽く叩きます。※この時、絶対に強く叩いてはいけません。

・悪化するおそれがあるので、水分を摂るのは落ち着いてから。

・落ち着いてきたら大きな深呼吸を促し、食事を再開します。

 

<激しく咳き込む~呼吸が困難な場合>

・こんな症状が発生している場合は呼吸困難に陥っています。ただちに救急搬送を依頼しましょう。

 - チアノーゼ(顔や唇が紫色になる)

 - 手で首をかきむしるような動作(チョークサイン)

 - 咳も声も出せない

・詰まっている異物が確認できる場合は、救急車が到着するまでの間、指を使って以下の順序でかき出します。

 1)ガーゼなどを指に巻く

 2)本人を横向きに寝かせ、義歯を外す

 3)詰まったものを指でかき出す

 

普段の見守りと応急処置の体制を構築して誤嚥のリスクに備えよう

重篤な結果につながることの多い誤嚥事故。万一発生した場合は、周囲の人の適切かつ速やかな対処が生死を分けます。サービスの利用を開始した時の聞き取りや、定期的な歯科検診の情報共有など、普段から利用者さんのお口の健康をはじめとして、嚥下状態の把握と食事時の見守りによる予防に加え、誤嚥が発生した場合に応急処置ができる体制を整えておくことも大切です。

 

 

 

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