RPAの活用で介護現場の新人定着率を上げよう ~新人教育と業務効率化~

介護業界における2025年問題では、人材不足が大きな課題となっています。その中で、新人定着率の向上は非常に重要なテーマです。解決策の一つとして、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した業務効率化が注目されています。今回は、RPA導入によって、新人教育やキャリア形成のサポートが実現する可能性についてご紹介します。

介護業界における新人スタッフの離職率は約6割?新人定着率の重要性

2025年を境に、介護を必要とする高齢者が急増する一方で、労働人口の減少により介護業界では深刻な人材不足が予想されています。いわゆる「2025年問題」とも呼ばれる現状においては、人材不足の解消には新たな人材の確保だけでなく、採用後のスタッフの離職を防ぐ取り組みも求められます。

コストをかけて採用・育成したスタッフには、できる限り長く安定して働いてもらいたいところですが、実際はどうでしょうか。公益財団法人介護労働安定センターが実施した令和5年度「介護労働実態調査」によると、介護職員の離職率は全体的に低下傾向にあるものの、現場では依然として人手不足が続いています。特に入職後早期に退職するケースが目立っており、同センターの令和4年度調査では、離職者のうち入職後1年未満で離職した人が34.4%、1年以上3年未満で退職した人が25.5%を占めています。つまり、仮に介護職に入職して3年以内の人を「新人」とみなすのであれば、そのうちのおよそ60%が退職している計算になります。

さらに、厚生労働省のデータによれば、介護業界における新卒者の離職率は約40%前後で、全産業平均よりも高い傾向にあります。他業界では徐々に退職が進む中、介護業界では入職後1年以内の離職率が特に高いという実態が浮き彫りになっています。

このような状況から、介護現場における新人の定着率向上は、業界全体で早急に対処すべき重要な課題と言えるでしょう。

介護現場で新人スタッフが定着しない理由は?

介護業界で新人スタッフの定着が難しい理由は何でしょうか。介護労働安定センターが実施した令和5年度の調査によると、介護職を離職した理由の中で最も多いのは「職場の人間関係に問題があった」というもので、全体の34.3%を占めています。特に若手スタッフにとっては、上司との関係が大きな要因となっており、上司の思いやりのない言動やパワハラ、管理能力の低さが指摘されています。また、職場内での仲間はずれによる孤立感や疎外感といった問題も、新人スタッフの間で深刻な影響を与えています。

これらの問題の背景には、シフト勤務体制のために上司とのコミュニケーションが取りづらいことや、日常業務の負担が大きいために新人への指導やアドバイスに充てる時間が不足しているという、介護業界特有の状況が影響していると考えられます。さらに、「給与など待遇が悪い」「自分の介護技術が追いつかず力不足を感じた」「将来の展望が見えなかった」といった理由が、離職の主な要因として挙げられています。労働条件に不満を抱く人が多いことに加え、特に新人スタッフは業務に必要なスキルや知識が不足していると感じ、キャリアパスが明確でないためにストレスや不安を感じやすい状況です。

これらの要因が複合的に絡み合うことで、新人スタッフの定着が難しくなっていると言えるでしょう。こうした状況を改善するためには、以下の取り組みが有効です。

課題① 職場の人間関係の改善:

コミュニケーションの強化が求められます。

課題② 労働環境の改善:
給与や労働時間などの待遇を見直し、業務効率化により働きやすい環境を整備することで、離職防止につながります。また、職場全体の効率化が進むことで全スタッフに余裕が生まれ、コミュニケーションの改善も期待できます。

課題③ キャリアパスの整備:
将来の展望を持てるよう、スタッフに対して明確なキャリアアップの道筋を示すことが重要です。

課題④ 新人教育および研修制度の充実:
定期的な研修やフォローアップを実施することで、業務への理解を深め、不安を軽減することができます。

これらの施策を総合的に実行することで、新人定着率の向上が期待されます。その一環として、現在介護現場で注目されているRPAの導入も検討する価値があるでしょう。

RPAとは何か?テクノロジーのサポートで新人定着率の向上を図る

前述の通りRPA は、ソフトウェアロボットを用いて繰り返し行われる業務を自動化する技術です。主に、パソコン上で実施されるデータ入力、帳票作成、メール送信などの定型業務を、不慣れな新人スタッフの代わりに自動で行い、業務効率の向上をサポートします。介護現場にRPAを導入することで、介護本来の業務に直接関係しないルーチンワークを軽減でき、新人スタッフの負担を大幅に減らすことが可能です。結果として、労働環境の改善につながり、新人定着率の向上も期待できます。

具体的な各課題に対するRPA導入の効果としては、以下の点が挙げられます。

• シフト管理の最適化(課題①:職場の人間関係の改善)
シフト作成や調整は時間と労力を要する業務ですが、RPAを活用することで、勤務時間や希望休、スタッフ間のコミュニケーションが円滑になる等の状況を考慮したシフトを自動作成できます。これにより、勤務時間や希望休を踏まえた個々人に合わせたシフト作成が可能なため、ワークライフバランスの向上や新人スタッフの不満軽減が期待できます。また、スタッフ間のコミュニケーションを円滑にするために、各スタッフの状況や先輩スタッフとの組み合わせなどを考慮したシフトの自動作成により、新人スタッフは質の高いOJTを受け、現場に早く適応できるようになります。そのうえ新人スタッフは業務習熟のための時間の確保により、早期に職場に慣れ、定着率向上や離職率低下が期待できます。

• 事務作業の負担軽減(課題②:労働環境の改善)
介護現場では、介護記録の作成、シフト管理、請求業務など多くの事務作業が求められます。新人スタッフはこれらの業務に慣れるまでに時間がかかり、ストレスを感じることも少なくありません。RPAを導入することで、記録の自動入力や請求業務の自動化が可能となり、新人スタッフは本来のケア業務に専念できる環境が整います。

またRPAは、新人研修やキャリアパス形成を効果的にサポートするツールでもあります。定型業務の自動化により業務負担が軽減されるため、スタッフは専門的なスキルや知識を深めたり、新たな資格取得に向けた勉強時間を確保できます。その結果、上位の役割や昇進へのステップアップが可能になります。

具体的には、以下のとおりです。

• キャリアパス形成への活用(課題③:キャリアパスの整備)
RPAを利用して、スタッフのスキルや資格情報、研修履歴を一元管理し、定期的な評価を自動化することで、各スタッフに適したキャリアパスの提案が可能になります。

• 新人研修への活用(課題④:新人教育および研修制度の充実)
介護現場では、指導者が毎回異なるため、教え方にばらつきが生じることがあります。RPAを活用して業務手順を標準化し、マニュアルを電子化することで、新人スタッフが自己学習できる環境が整います。これにより、指導者の負担が軽減されるとともに、指導方法の統一と教育の効率化が図られます。電子マニュアルと対面指導を併用することで、個々の理解度やスキルの向上が促され、新人定着率の改善も期待できます。また、RPAを用いて研修の進捗管理やスケジュール調整を自動化することで、新人スタッフが計画的に研修を受けられるようサポートできます。

このように、RPAは新人スタッフの負担を軽減すると同時に、成長と長期的なキャリア形成を効果的にサポートします。

RPA導入で新人スタッフが働きやすい職場環境づくりを

介護現場にRPAを導入して日常業務を効率化することで、新人スタッフが働きやすい職場環境を実現できます。これにより、指導者の負担が軽減され、新人の定着率向上や業務の質の向上にも寄与します。また、業務効率化により、すべてのスタッフが本来の介護業務に専念できる環境が整い、現場全体でサービスの質の維持・向上と円滑な業務運営が目指せます。なお、RPA導入には初期投資や運用体制の整備が必要なため、各現場の実情に応じた計画策定が望まれます。


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