介護人材育成
どうする?介護現場の人材確保
介護現場では人材不足が慢性化していることから、国も介護人材の確保を急務課題としています。国が行っている、介護の人材確保や方法について、詳しく解説します。
介護の人材確保をめぐる現状とは
介護人材の慢性的な不足は、施設や事業所が頭を悩ませる大きな問題のひとつです。厚生労働省の「福祉・介護人材の確保に向けた取組について」によると、2017年度の有効求人倍率は全産業で1.50倍なのに対し、介護業界に限ると3.50倍と高く、介護業界の人材不足の深刻さがうかがえます。
具体的に介護人材はどれくらい不足しているのでしょうか? 「第7期介護保険事業計画」にもとづいた必要な介護人材数は、2020年度末で約216万人、2025年度末には約245万人と推計されています。この人数に達するためには、2020年度までに約26万人、2025年度までには約55万人もの人材を確保する必要があります。
そのため、国も総合的な人材確保対策に取り組んでいるのです。大きくは「働く人を増やして介護人材を増やす」施策と、「離職防止や定着促進を行うことで介護人材を確保」する施策に分けられます。
働く人を増やして介護人材を確保する施策
働く人を増やすための施策として、中高年層を対象とした「アクティブシニア等の新規参入促進」、学生を対象とした「介護職の魅力向上の発信」そして、外国人を対象とした「外国人材受け入れの拡充」の3つがあります。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
アクティブシニア等の新規参入促進
早期退職した人などを中心としたアクティブシニアの人々は、まだまだ働く意欲も体力もあります。しかし、介護の仕事に就くには不安を感じている人も多いといわれています。そこで、2018年4月に新設されたのが「入門的研修」です。介護未経験者を対象に介護の基礎的な知識を学んでもらうことで、介護職への不安を払しょくし、就業を促すために導入されました。
研修修了後、就業のマッチングまで一体的に支援し、人材確保にしっかりつなげる仕組みがとられています。
また、研修修了者は、介護職員初任者研修や実務者研修の科目の一部免除を受けられるなど、ステップアップしやすい工夫も取り入れられています。
介護職の魅力向上の発信
介護福祉士養成施設は、年々入学者数が減少しています。介護職は「給料が安い」「3K(きつい・きたない・きけん)」といったマイナスイメージが若い人を中心に広まっているのが現状です。政府は、介護職のイメージアップと人材確保のために、数々の事業を推進しています。厚生労働省と文部科学省が協力し、介護事業所でインターンシップや職場体験を実施する、介護事業所と介護福祉士養成施設が連携して、中学や高校へ出前講座を開催するなどです。また、民間事業者に委託して、VRによる認知症体験や介護ロボット体験などのイベント開催にも取り組み、介護福祉士になるための修学資金の支援制度も設置されました。
外国人材受け入れの拡充
介護業界では、EPA(経済連携協定)による外国人材の受け入れを2008年から行っています。受け入れ人数は年々増加傾向にあり、現在はインドネシア・フィリピン・ベトナムの3国からの受け入れが可能となっています。
2017年9月からは、新たに在留資格「介護」による受け入れがスタート、同年11月には「介護職種の技能実習」も始まりました。このふたつの制度が新設されたことにより、日本で介護業務に従事する外国人や、介護福祉士を目指すために介護福祉士養成施設へ入学する外国人留学生が増えることが予想されています。
定着促進・離職防止で人材確保する施策
現在、介護施設などで働いている人を流出させないための、離職防止による人材確保施策には、「介護職員の処遇改善による給料の底上げ」「介護ロボット導入やICT化による仕事の負担軽減」「ハラスメント対策などの労働環境の改善」の3つがあります。それぞれの施策について詳しく見ていきましょう。
介護職員の処遇改善による給料の底上げ
介護職が敬遠される理由のひとつに、賃金の低さがあげられます。そこで国は、2012年から介護職員の処遇改善に取り組んでいます。2017年度からは、介護職員の技能・経験に応じた昇給の仕組みを構築した事業者に対する加算を創設しました。2019年10月からは、勤続10年以上の介護福祉士について、月額平均8万円相当の処遇改善などがスタートする予定となっています。
介護ロボット導入やICT化による仕事の負担軽減
介護職に従事する人のなかには、身体的負担から腰を痛める人や長時間勤務で体力に不安を持つ人もいます。国では、身体的負担の軽減や業務効率化を目的に、介護ロボットを導入する事業所などに向けた支援事業を行っています。
業務の効率化を目的とした支援策として、2017年度にはモデル事業やICTの現状調査などを実施、2018年度にはICT標準仕様を作成しました。2020年度以降にはICT標準仕様を運用することで、異なる介護ソフト間でも円滑な情報連携が可能になる予定です。
ハラスメント対策などの労働環境の改善
近年、問題となっているのが、介護現場での利用者や家族による介護職員へのハラスメントです。介護職員が安心して働ける労働環境を整えるため、国は2019年3月に「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」を作成しました。しかし、このマニュアルはまだ広く周知されていません。まずはマニュアルの存在を多くの施設に知らせていく必要があります。介護現場のハラスメント対策についてはまだ始まったばかりであり、これからの動向に注目したいところです。
介護の人材確保は離職防止・定着促進が重要
介護現場での人材不足感は年々強くなってきています。特に、採用段階での人材不足感が強いことから、新たな人材確保はまだ難しい状況といえます。まずは、今ある人材を大切にすること、つまり、流出させないように離職防止を図ることが重要です。ハラスメント対策はそれぞれの職場ですぐにでも取り組める施策のひとつです。できることから取り組んでいきましょう。
参考:
- 福祉・介護人材の確保に向けた取組について|厚生労働省
- 長く働ける職場環境の整備、必要な方策は?|ケアマネタイムス
- 職場におけるハラスメント対策マニュアル|厚生労働省
- 介護分野のICT化、業務効率化の推進について|厚生労働省