大切な介護人材の退職対策、いま何をするべきか

介護人材の不足感や離職率の現状について、公益財団法人介護労働安定センターが2020年に実施したアンケート調査をとりまとめた、「令和2年度介護労働実態調査結果」からひも解いてみましょう。

まず、事業主が感じている介護人材の不足感について、「大いに不足」+「不足」+「やや不足」を集計すると全体では60.8%で、前年度65.3%から減少しています。離職率は14.9%(前年15.4%) とゆるやかな減少傾向にありますが、人手不足を感じている事業主は60%を超えています。

このような状況下で、介護人材の離職をどのように防いでいけばよいのでしょうか。介護人材の離職の傾向や、事業主が講じられる対策を紹介します。

いま、介護職員はどんな気持ちで働いているのか?

2020年初頭から世界中に広まった、新型コロナウイルス感染症が招いた状況は、日常生活に大きな変革をもたらそうとしています。飲食や旅行、エンターテインメント事業などが大きな打撃を受ける反面、エッセンシャルワーカーとしての介護職が見直され始めています。

不安定な雇用環境から介護職への転職を考える人もいます。今後は資格として魅力のある介護福祉士をめざす若年求職者が増加する可能性もあるでしょう。また、主婦層や高齢の求職者が、自宅近くで幅広く求人活動を行っている介護事業所のパートやアルバイト職に応募をするケースもあります。例えば、介護労働安定センターが公開している令和 2 年度 介護労働実態調査では、コロナ禍に異業種から介護職に入職した理由として、「介護分野は成長産業で雇用が安定しているから」、「前職よりも新型コロナウイルス対策が進められており、感染リスクが低いから」、「通勤時の感染リスクが低いから」、「感染症対策等の教育研修等が充実しているから」、「経営が健全で将来的に安定しているから」、「労働日数、労働時間数が希望と合っているから」、「前職がコロナの影響で、経営悪化したため」などが挙げられています。

同時に、事業所側からも、介護初任者研修の研修費を事業所が負担・援助したり、講座受講のために勤務シフトの便宜を図ったりすることで、就業をサポートするところも多く見られます。

しかし、実際に介護職員として働き始めると、さまざまな悩みや不満が生じてしまう方も少なくないようです。「令和2年度介護労働実態調査結果」では、相談窓口のない事業所の集計データでは「労働条件等の悩み、不安、不満等」として、現場の人手不足のほか、「仕事内容のわりに賃金が低い(44.8%)」、「身体的な負担が大きい(34.2%)」、「有給休暇が取りにくい(33.3%)」、「精神的にきつい(32.1%)」が上位に挙がっています。上記のような離職を決める引き金となる要素が現場にはあり、状況は楽観視できません。

これらの問題を、どう具体的に解決していったらよいのでしょうか? 「なぜ、辞めるのか?」、「離職率を下げるにはどうしたらよいのか?」について、具体的な対策を見ていきましょう。 

なぜ介護職員は辞めるのか?

介護の仕事を辞める決断をした理由とはどのようなものでしょうか? 公益財団法人介護労働安定センターの公表資料「介護労働の現状について」を見ると、介護関係の仕事を辞めた理由の調査結果(複数回答)では男女のその理由にちがいがみられます。

まず、男性のベスト3は

①    自分の将来の見込みが立たなかったため(26.9%)

②    職場の人間関係に問題があったため(26.7%)

③    法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(23.4%)

これらに追従して20%台で「収入が少なかったため 」(22.9%)「他に良い仕事・職場があったため」(20.2%)が続いています。

また女性の場合は、

①    結婚・妊娠・出産・育児のため(23.9%)

②    職場の人間関係に問題があったため(23.2%)

③    「他に良い仕事・職場があったため」(15.9%)

僅差で「法人や施設・事業所の理念や運営の あり方に不満があったため」(15.6%)が続いています。

男女ともに職場の人間関係が高い離職要因になっています。また、男性は将来性の高さや収入に不満を感じて離職に至っていることがわかります。事業主は職員がもつ不満を理解し、対処する必要があるでしょう。事業主は職場環境や待遇などを改善するために、職員とコミュニケーションを図ることで期待や要望に応える方策を打ち出す努力をすることが重要です。

どうしたら介護職員の離職を止められるか?

介護職員の離職を防ぐための対策として、行政が実施している支援事業を利用する方法があります。

離職者を減らすには、業務効率化による介護職員の負担軽減、産休・育休、有給休暇の取得率向上など労働環境の改善や待遇の見直しが急がれます。同時にハラスメントなどの対策をし、介護職員同士の良好な関係を構築しやすい職場環境づくりをすることも大切です。

 

離職対策例

具体的な離職防止施策として、東京都福祉保健局の取り組みから主なものを紹介しましょう。

  • 介護現場改革促進事業

質の高い介護サービスを提供できるよう、ICT化や、キャリアパスの導入などの人材育成の仕組みづくりを行う。同時に、介護職員が安心して働き続けられるような職場環境づくりについて、セミナーを実施するなどして職員の意識を啓発し、定着を図る。

  •  介護職員の宿舎施設整備支援事業・東京都介護職員宿舎借り上げ支援事業

介護職員のための宿舎を用意したり、家賃補助制度を整備したりする。

  • 介護現場におけるハラスメント対策事業

利用者やその家族からのハラスメント対策の普及や啓発を行い、介護現場におけるハラスメント相談窓口を設置する。

これからの介護人材確保に必要なものは?

2025年に団塊の世代が後期高齢者になり、一気に要介護者が激増する懸念がある一方で、介護人材は約38万人以上不足するという見通しがあります。もう、すぐそこまで来ている危機に、「だれも辞めない介護事業所」をつくるためにはどうしたらよいのか。そのカギは、労働環境や待遇、人間関係の改善にあるといえます。残業がない労働時間の整備、OJTの徹底、ICT導入による業務推進、福利厚生の充実などの改善は、介護事業を行う企業力にかかっているのです。そのためには、官民一体となった施策を講じ、若者のみならず幅広い層の人材からなるダイバーシティマネジメントを確立させることが重要です。年代、性別、国籍を問わず、多様性のある労働力を確保する必要があるといえるでしょう。

参考:

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