在宅支援強化が求められている老健の将来像とは

介護保険制度の創設により社会的入院が減少した現在、問題となっているのが介護老人保健施設(老健)の第二の特養化です。この問題を解決するため、国は老健に対し、在宅支援機能を一段と強化するための施策を打ち出しました。在宅支援強化の現状について詳しく解説します。

 

国から在宅支援強化が求められるようになった老健

介護老人保健施設(老健)は、病院と在宅の中間施設として高齢者の在宅復帰を支える役割を担っており、病院から老健へ入所する人も少なくありません。ところが、病院から入所した人には、特別養護老人ホーム(特養)への入所を希望する「特養待ち」の人、親族と疎遠なため在宅復帰が事実上難しい人も多く、社会的入所が増加しているのが現状です。

また、以前の介護報酬体系では、最低の人員配置で長期入所者を受け入れ、ベッド稼働率100%で運営すれば、収益率を上げることができました。そのため、リハビリテーションといったサービスの提供は形式的に行うのみの、いわば「第二の特養化」した老健も存在しているのです。

この問題を解決する施策として、国は地域包括ケアシステムの構築を進めることとしました。2018年の介護保険法改正では、これまでの在宅支援のみならず、在宅療養支援のための地域拠点としての役割も老健に求めています。

 

在宅支援がさらに強化された超強化型老健とは?

老健の報酬水準は、以前から在宅復帰率の達成度合いによって「在宅強化型」「加算型」「従来型」の3つに分類されていました。在宅強化型は基本報酬が上がり、加算型は従来型の基本報酬に在宅復帰・在宅療養支援機能加算が加わる形の介護報酬となっています。

2018年に施行された改正介護保険法では、在宅復帰・在宅療養支援に関する評価をさらに細かくし、分類も「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他型」の5つに細分化されました。このうち、在宅復帰支援としてもっとも評価を受けやすいのが「超強化型」です。

それぞれの施設がどの分類に該当するかは、以下に示す5つの項目における算定要件達成度に応じて決められています。どの項目の要件も満たさない場合には「その他型」と分類されます。

 

在宅復帰・在宅療養支援等指標

在宅復帰率やベッド回転率などの10の評価項目を点数化し、それぞれの項目の点数の合計で評価を行います。最高値は90で、70以上であれば「超強化型」に分類されます。「在宅強化型」は60、「加算型」で40、「基本型」は20以上あれば要件を満たすことができます。

 

退所時指導等

退所に関わる指導等を行ったどうかによって、評価が行われます。「その他型」以外では、この要件を満たしている必要があります。退所時指導等には、「退所時指導」と「退所後の状況確認」の2つの項目があります。それぞれの要件は以下のとおりです。

  • 退所時指導

入所者が退所する際に、本人や家族などに対して退所後の療養についての指導を行うこと。

  • 退所後の状況確認

入所者が退所して1か月以内(要介護4・5の場合は2週間以内)に、居宅を訪問するか指定居宅介護支援事業者から情報提供を受け、在宅での生活が1か月以上続く見込みであることを確認したうえで、その旨を記録していること。

 リハビリテーションマネージメント

入所者のリハビリテーションが計画されており、計画に応じて実施や評価が行われているかどうかも、在宅復帰支援の評価ポイントです。ここで定義されているリハビリテーションは、理学療法や作業療法、そのほかに必要とされるリハビリテーションとなります。この項目も、「その他型」以外では要件を満たしておかなければなりません。

 地域貢献活動

施設がある地域に貢献する活動を行っているかどうかが評価ポイントとなります。「基本型」と「その他型」を除く3つの分類においては、この要件を満たす必要があります。

 充実したリハビリテーション

リハビリテーションマネージメントとは別に、実際に行っているリハビリテーションが充実しているかどうかも、在宅復帰支援の評価では重要となります。最低でも週3回以上リハビリテーションが実施されていれば、要件を満たすことができます。この要件に該当していれば、「在宅強化型」もしくは「超強化型」に分類されます。

 

老健における段階的看取りと在宅支援強化の関係

老健は国から在宅復帰支援の強化を求められる一方で、看取り機能としての役割も求められています。在宅支援強化を行うとベッドの回転率が下がるため、一見すると看取りとは相反するように思われます。ところが、厚生労働省の発表によると、在宅復帰支援に積極的な在宅強化型や超強化型の施設のほうが、ターミナルケアも積極的に行っていることがわかりました。

ただし、老健に求められている看取りは、特養のように終(つい)の棲家(すみか)としての看取りではありません。心身状態に応じて在宅と老健を行き来しながら、結果的に老健での看取りを行うという、段階的看取りの役割を求められているのです。

老健での看取りでは、家族の9割近くが満足しているという結果が出ています。今後の老健のあり方として、在宅支援と看取りの両方の役割を担っていくことが、より一層期待されることになるでしょう。

 

従来型老健の在宅支援強化がどう進むかが重要

2018年度の調査によると、従来型老健99施設のうち23施設が加算型に移行しました。2021年度の介護報酬改正では、老健のあり方について、さらなる動きがでてくることは明白です。残る従来型の老健も、今後は在宅支援を強化せざるをえない状況にあるといえるでしょう。


参考:

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