リアル導入時代に入った介護施設のICT化

30万人以上におよぶという圧倒的な介護人材不足時代の到来は、もう待ったなしです。介護事業者たちは今、何から取り組むべきなのでしょうか?

まずは、これからの時代を担う若い人材の確保でしょう。若い人材を定着させるためには、きつい、長時間勤務、人気がない、といった介護現場への対策が必要です。

誰もが介護職をめざしたいと思うような魅力を創出するためにするべきことは? 介護施設で働く職員の離職率を低下させ、より長い勤続期間を安定的に確保するためにするべきことは?

現状改善の鍵のひとつになるのがICT化です。すでに介護現場の第一線で標準になりつつあるICT導入事例とその問題点をまとめました。

 

介護記録の主流になりつつあるタブレットの現状

ICT化が急速に進んでいるのは、タブレットやスマートフォンなどを介した介護記録の情報入力、処理です。現場で入力された介護記録は、事業所や本部においてリアルタイム情報として共有、活用されます。また、データはそのまま請求事務処理まで一括管理されます。

このようなタブレット入力、記録はすでに介護事業所で浸透しつつありますが、現場からは以下のような問題点があがっています。

  • さまざまな企業が参入し、異なるソフトウェアやハードウェアの供給サービスの林立により、データフォーマットの統一がなされていない。そのため、記録からデータ処理が1企業内で完結してしまう情報ガラパゴス化への懸念がある。

現在、厚生労働省が主導する、次世代ヘルスケアシステムの構築を図る試みがあります。健康・医療・介護サービス分野において、地域の多職種間で介護情報を連携活用することをめざすものです。その過程で、介護情報の標準仕様が作成されることが望まれています。

ひとりの利用者が複数の介護事業所からサービスを受ける場合を考えてみましょう。統一フォーマットで正確な情報を把握し、異なる介護ソフトウェア間でもケアプランのデータ交換、共有が可能ならば、業務の質が向上します。行政担当者やケアマネージャー、サービス提供責任者など関連分野の業務改善、スピード化が図れるようになるでしょう。

 

介護ロボットの現場への浸透状況と問題点

介護業界のICT化で象徴的な存在ともいえる介護ロボット。ロボットという形態ではなく、さまざまな福祉用具にAI(人工知能)を活用した機器も続々と開発されており、現場で活躍しはじめています。代表的な例は以下のとおりです。

  • 移乗支援(転倒事故防止、ヘルパーの腰痛事故の予防)

介護職にパワーアシスト機器を装着させて、ベッドから車いすへの移乗を安全に実現。

  • 移動支援(介助作業の補助)

ロボット技術を用いた屋外歩行支援車いすロボットや、屋内でのトイレ誘導やトイレ内での姿勢維持を支援する歩行支援サポートロボット。

  • 見守り(夜勤時の介護スタッフの作業の軽減や事故や異変の早期検知、防止)

転倒検知センサーやAIを活用したスマートベッドによって、動き出し、起き上がり、端座位、離床など居室内の利用者行動のアラート通知や、離床後一定時間経過してもベッド上に戻らない場合の検知、通報。見守りカメラも併用。

介護ロボットの問題点

導入が本格化しはじめている介護ロボットですが、問題点もあります。

  • 導入コストが高価である
  • 運用や保守などに時間、手間がかかり、かえって人件費が上昇してしまう場合がある
  • 故障や暴走といった万が一の場合の取り扱いに不安が残る

さまざまな介護ロボットが開発・発売されるが、実用的ではない、現場で役に立たないものが多いという声も聞かれます。

今後、ロボットを製造開発、導入を促進しようとする側は、以上の点を解決し、普及のために補助制度をより充実させる努力が必要でしょう。

また、導入する側は、介護ロボットは一般的イメージの「ロボット」ではなく、「ロボット技術による制御機能のある福祉用具」であることを理解し、機能を過信せずに実用的に使う姿勢が大切といえるでしょう。

 

公的サポートを活用してICT化を進めよう!

2015年度には58件だった介護ロボット導入計画件数は、2018年度には36道府県で1,037件に増加(厚生労働省資料)しました。実用化が加速しているICT機器導入ですが、介護事業者が直面するもっとも大きな障壁は、やはり資金調達といえるでしょう。導入実現には公的サポートが不可欠ですが、毎年サポートは手厚くなってきている傾向です。厚生労働省は、地域医療介護総合確保基金(各都道府県に設置)を活用した導入支援、1機器あたりの補助上限額30万円(補助率1/2)を提言しています。各自治体もさまざまな形で補助を行っています。これらの公的サポートを積極的に活用してICT導入を進めることが、若く優秀な人材確保という業界の生き残り方程式を解く鍵となるでしょう。

参考:

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