介護人材育成
介護スタッフの対立をプラスに変えるコンフリクトマネジメント
介護の仕事はチームで行うために意見のぶつかり合いが生じやすく、それがきっかけとなって人間関係が悪化するケースが少なくありません。人間関係の悪化は離職の原因にもなるため、スタッフ間の過度な対立は避けたいところです。
しかし、スタッフ同士の意見の食い違いが、職場のさまざまな問題を解決するきっかけになるとしたらどうでしょうか。そんなことはあり得ないと思うかもしれませんが、「コンフリクトマネジメント」という考え方を取り入れることで可能になります。
コンフリクトマネジメントとは?
コンフリクトマネジメントとは、その言葉のとおりコンフリクト(意見の対立や衝突)をマネジメントする(うまく管理して結果につなげる)ことを指します。
対立が生じたときに大切なのは、「お互いが協調し合える案を探す」ことです。コンフリクトマネジメントでは、意見が対立しているスタッフがそれぞれどのようなことを求めているのか確認し、それに沿ってお互いが協調し合える建設的な案を探します。
部署の異動や時間の経過は根本的な解決にならない
コンフリクトマネジメントを用いて協調し合える案にたどりつくには、当事者同士の意見の裏側にあるニーズを探ったり、新しい考え方を模索したりする必要があり、当事者にも周囲の人にも根気が必要です。そのため、「対立したスタッフを異動させたほうが簡単に問題を解決できる」「時間が経過すれば収束するだろう」というスタンスでの対応を考えることがあるでしょう。しかし、それではスタッフのモチベーション低下や離職にもつながりかねません。
協調すること以外の解決方法もありますが、以下のようにいずれもデメリットをはらんでいます。
強制
どちらか一方の意見を力ずくで押し通す方法です。この場合、意見が通らなかった側の人が不満を抱えます。
服従
どちらか一方が自分の意見を取り下げることで、対立自体を収束させる方法です。意見を通すことができなかった人には不満が残ります。
回避
部署を異動させることで対立を収束させたり、時間の経過によって対立が自然消滅するのを待ったりする方法です。前者の場合は異動することになった人が大きな不満を抱えることとなり、後者の場合は状況がより悪化する可能性があります。
妥協
お互いが譲り合い、双方が納得できる形で問題解決を図る方法です。一見合理的に見えますが、両者ともに我慢を強いられるため、時間が経つと再び意見の衝突が起きる恐れがあります。
コンフリクトマネジメントの具体例
コンフリクトマネジメントは、どのように行えばいいのでしょうか。例を挙げて説明しましょう。
意見の対立が発生した場面の例
ある介護施設では、夕食前にトイレ誘導が行なわれています。Aさんが「便は食事のあとのほうが出やすいので、トイレ誘導は夕食後のほうがいいのではないか」と提案したところ、Bさんが「夕食後だと日勤者が帰ってしまうので、夜勤者の負担が増えすぎる」と反論しました。
コンフリクトマネジメントの手順
コンフリクトマネジメントは、以下のような手順で進めていきます。
- それぞれの主張を確認する
まずは、どのようなことで意見が分かれているのかを確認します。
この例では「トイレ誘導を食前に行うべきか、食後に行うべきか」ということが争点であることを確認します。 - 主張の意図を確認する
次に、双方の主張の意図を把握します。
Aさんは利用者がトイレを必要としているときにトイレ誘導したいという考えが、Bさんは夜勤スタッフの負担増を気にかけていることが見て取れます。 - 譲れないポイントを確認する
双方にとって譲れないポイントを明確にします。
Aさんは「サービスの質の低下を避けたい」ということ、Bさんは「夜勤スタッフの負担増加を避けたい」ということです。 - 解決策の方向性を考える
双方のニーズを満たす方法を考えます。
夜勤スタッフの負担増を最小限に抑えつつサービスの質を高める方法があれば、AさんのニーズもBさんのニーズも満たすことができます。 - 具体的な計画案を提示する
方向性に沿ったアイデアを出し、検討します。
この例の場合は、「利用者の排便リズムを調べ、夕食後に排便する確率が高い人のみ食後にトイレ誘導をする」「夜勤スタッフの人数を増やし、夕食後のトイレ誘導に対応できるようにする」といった解決方法を提案することで、双方が協調し合えるようになります。
双方の主張やその意図をしっかりと確認することで、スムーズに解決策を提案できるようになります。手間を惜しまず、上記のプロセスを実行しましょう。
コンフリクトマネジメントは自然に協調し合える人間関係の構築につながる
コンフリクトマネジメントは、仕事上の意見の対立をうまく収めるだけではなく、その対立をきっかけに建設的なアイデアを生み出すことができます。まずは管理職が率先して取り組み、コンフリクトマネジメントの考え方をスタッフにも浸透させましょう。事例を用いながら、双方のニーズを満たせる解決策の見つけ方を学んでもらうのもいい方法です。スタッフが自然に協調し合える職場を目指しましょう。