介護の現場で知っておきたい「QOD」というワード

介護の現場ではごく普通に使われる言葉のひとつに、「QOL」があります。これは「Quality of Life」の略称で「生活の質」を意味し、利用者が精神面、肉体面でどれだけ人間らしく豊かに生きるか、ということを計る概念です。また、利用者が介護サービスを受けて改善するべき日常生活の質を表現する言葉でもあります。

さらに、最近ではQOLに相対する「QOD」(Quality of Death」、つまり「死の質」という言葉が注目されつつあるのをご存じでしょうか。これは介護の世界に当てはめると、利用者の終末期、つまり「死の迎え方の質」についての見解をあらわした言葉ともいえます。

国別QODランキングの1位は英国、日本は14位

イギリスの経済紙「エコノミスト」が2015年に発表したQODランキングによると、イギリスが80カ国中1位でした。以下2位がオーストラリア、3位がニュージーランドと続き、最下位がイラクとなっています。アジア諸国では台湾が6位、シンガポールが12位で、平均寿命が世界でもトップクラスの日本は14位という結果でした。

QODランキングは、「緩和ケアと保健医療状況」「保健医療分野の人材」「保健医療に費やす経済力」「ケアの質」「地域社会の関わりの度合い」の5項目の調査指数から算出されています。そして、ランキングの要素の中心になっているのは、各国の「緩和ケア」への取り組みの充実度といえるようです。

QODの本質は緩和ケアの質

QODランキングを見渡すと、ヨーロッパ、オセアニア、北米などの社会保障が充実した国が順当にランクされています。そのなかでもイギリスが1位になった理由は、QODを語るうえで最も大切な緩和ケアのメニューが充実しており、保険が適用されるためだと考えられます。また、利用者サイドも積極的に緩和メニューの知識や情報を得ているという状況にあるようです。

イギリスの緩和ケアの現状は?

イギリスでは、利用者が数時間から数日後に亡くなることが予期される場合の看取りや医療行為のクリニカル・パスである「リバプール・ケア・パスウェイ」が有名です。これは、医療の質・効率を確保してケアチームがスムーズに連携するために、ケア処置や検査項目などをまとめたツールで、痛み、呼吸困難などの終末症状の緩和、安全で適切な服薬や口腔ケア、水分補給などのサポート、家族などへのサポート、死亡後の対応などがきめ細かくチェックリスト化されています。

終末医療の大きなテーマである「鎮痛」に関しては、さまざまなオピオイド系(モルヒネ系)の鎮痛剤が使用されています。鎮痛治療と患者の心理的な療法の相互作用がケアの効果を上げているようです。

世界トップクラスの長寿国である日本のQODがなぜ14位なのか?

世界でもトップクラスの長寿国といわれる日本が、なぜQODのランキングでは14位に留まるのでしょうか。

日本では、本人の死に対する考え方を尊重したり、緩和ケアへの積極的な取り組みを重視したりといったことよりも、「1日でも長く生きてほしい」「大切な家族を死なせるわけにはいかない」という気持ちが優先されているからだと考えられています。そのため、食べられなくなっても胃ろうなどの経管栄養をとり、意識がなくなっても入院や自宅療養を続けるという傾向が強いようです。それを示すかのように、平均寿命と健康寿命の差が女性で12年あまり、男性で9年あまりと大きな開きがあります。

それでも近年では、どう死にたいのか、自分の尊厳を最後までどう守るか、健康寿命をどう保持していくべきか、といった考え方が広がり始めています。政府もまた、居宅介護や自宅での看取りを推進する施策を打ち出しつつあります。

欧米と日本では、「死に方」「死に場所」に対する考え方が違います。また、本人を取り巻く家族の寄り添い方や、介護の理念にも違いがあると考えられます。今後の日本の終末医療、ターミナルケアはどのような方向に進んでいくべきなのか、常に考えていきたいものです。

 

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