適切な排せつケアのカギとなる排せつ記録

尿失禁をはじめとした排せつ障害を抱えている利用者は少なくありません。2018年度の介護報酬改定では、排せつに関する要介護状態を軽減する支援に対して「排せつ支援加算」が新設されるため、介護業界では排せつケアへの関心が高まっています。そこで今回は、適切な排せつケアという観点から施設で取り組むべきことを考えてみましょう。

同じ尿失禁でも利用者の状態はさまざま

尿失禁の「尿が漏れた」という現象は同じでも、その原因はさまざまです。咳やくしゃみをしたときに漏れてしまう腹圧性尿失禁、トイレに間に合わず漏れてしまう切迫性尿失禁などは、尿をためることができずに漏れる畜尿障害になります。尿意がはっきりしなかったり、お腹に力をいれないと尿が出なかったり、残尿感があったりする場合には、溢流性(いつりゅうせい)尿失禁、尿が出にくくて漏れる排尿障害であると考えられます。

排便障害も同様であり、括約筋のゆるみなどにより、がまんすることができずに漏れる場合、出にくいので漏れる場合などに分けられます。

また、ADL(日常生活動作)の低下によるものや、認知症によるものもあります。

適切なケアのカギを握るのは排せつ記録

アセスメントに基づいたケアプランに沿って適切なケアを実施するには、利用者の排せつ状況の把握が非常に重要です。施設では、すでに排せつ記録を実施しているでしょう。しかし、排せつ記録は「記録すること」に意義があるのではなく、その内容を分析し、より適切なケアへとつなげることが大切なのです。利用者によっては、複数のタイプの排せつ障害を持っているケースもあるので、排せつ記録をもとにパターンや障害の状況を分析することになります。

そこで、何についてどのように記録するのかという点を、今一度見直してみましょう。場合によっては、記録や分析がしやすいように、記録のフォーマットから見直したほうがいいケースがあるかもしれません。具体的な目標を立て、それに向けてミーティングを実施し、排せつ記録の改善に取り組んでください。そして、排せつ記録をより適切なケアに活かしていきましょう。

なお、介護現場での排尿障害の診断には、愛知県の高齢者排尿管理マニュアル(http://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/14.pdf)に掲載されている排尿チェック票を活用することができます。

スタッフ教育に時間を割こう

例えば排尿障害において、利用者の尿失禁がトイレに間に合わないためなのか、尿が出にくいためなのかといったタイプの把握ができれば、トイレに近い部屋を割り当てる、医師に相談して薬を処方してもらう、トイレ動作を工夫するなど、利用者に合わせた対応が可能になります。

認知力が低下している場合には、トイレの表示をはっきりさせたり、脱ぎ着が容易な服にしたり、利用者のトイレに行きたそうなサインを拾ったりといったことなども、対応策として重要でしょう。

そこで、これまでの経験から対応方法を編み出してきたスタッフに対しては、高齢者の排尿、排便の特徴や、排せつ行動のプロセス、排せつ障害についてそれぞれのタイプの状態や原因などを体系的に学べる機会を、すでに学んでいるスタッフに対しては、あらためて復習してもらえる機会を提供すると、よりよいケアに結びつくと考えらます。施設内での勉強会や講習会の開催を検討してはいかがでしょうか。

適切な排せつケアのために介護記録を分析しよう

失禁症状は、視覚障害や聴覚障害以上にQOL(生活の質)に影響を及ぼすといわれています。適切な排せつケアは利用者のQOL向上に大きく寄与するだけでなく、利用者の残存能力を活かすことになるため、最終的にはスタッフの負担軽減にもなると考えられます。

利用者の排せつ状態を把握するには、排せつ記録が欠かせません。記録を活用・分析することで、排せつのタイミングの把握や使用するオムツの削減ができ、利用者のQOLの改善につながります。さらにはスタッフのオムツ交換作業などの業務負担の軽減にもなるため、介護施設と利用者双方のメリットとなるでしょう。

 

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