「レスパイトケア」を巡る動きと介護施設としての取り組み方

これまで介護の世界では、主に介護を受ける人の視点に立った支援が行われてきました。ところが、介護のために離職する介護離職や介護疲れが社会問題となり、介護者を支援する必要性が認識されるようになってきました。そこで、注目されているのが「レスパイトケア」です。今回は、レスパイトケアの概要と取り組み方について解説します。

レスパイトケアとは?

レスパイトケアは、介護者が一時的に介護から離れて休息し、リフレッシュしてもらうための家族支援サービスのひとつです。日本では、1976年に心身障害児を対象としたショートステイからレスパイトケアが始まりました。
レスパイトケアの開始当初は、介護者の病気や事故、冠婚葬祭などのやむを得ない理由でのみ利用可能となっていました。ところが介護疲れが社会問題となったこともあり、現在では私的な理由での利用も認められています。具体的には、介護者の旅行や趣味活動のためにレスパイトケアを実施することができます。
レスパイトケアには、介護者のみならず、要介護者にもメリットがあります。例えば、ショートステイを利用することで他者との交流を行うきっかけになります。また、介護専門職から支援を受けることにより、家族による介護方法を客観的に見つめなおすきっかけになることもあります。

レスパイトケアを巡る国の取り組み

レスパイトケアは、2006年の介護保険法改正の際に「家族支援」という言葉で初めて位置付けられました。2018年度の法改正では、ショートステイを中心としたレスパイトケアに関わる改正が行われました。法改正のポイントは以下の3つです。

中重度者の高齢者の積極的な受け入れを推進

中重度者は全面的に介護や医療ケアが必要であるため、施設と介護者がともにレスパイトケアのためのショートステイにはあまり積極的ではありませんでした。しかし、以下の2つの項目を改正することで、中重度者でも積極的に利用しやすい体制を整えました。

  • 看護体制の充実

ショートステイ利用者の70%以上が要介護3以上だった場合「看護体制加算」が得られる。

  • 夜間の医療処置への対応強化

夜間の時間帯に看護師もしくは喀痰吸引等の実施ができる介護職員を配置している場合、「夜勤職員配置加算」としてその取り組みを評価する。

自立重度化予防を推進

国は新たに「生活機能向上連携加算」を創設し、ショートステイ事業者と外部のリハビリテーション専門職が連携することで、利用者の心身機能が維持できるような体制づくりを進めています。これにともない、機能訓練指導員確保のため、一定の実務経験がある鍼灸師が新たに機能訓練指導員の資格に追加されました。

認知症の人への適切なケアの提供を推進

今後、在宅で生活する認知症患者数の増加に備えて、国はこれまで特別養護老人ホームや介護老人保健施設に設けられていた「認知症専門ケア加算」の範囲をショートステイにも拡大しました。認知症専門ケア加算を受けるためには、以下の3つの条件を満たしている必要があります。

  • ショートステイ利用者の2分の1以上が日常生活自立度3以上である
  • 認知症介護の指導に関わる専門的な研修を修了している職員が在籍している

※最低在籍者数は、対象者の数が20名未満の場合は1人以上、20人以上の場合には19人を超えて10人またはその端数を増すごとにさらに1人以上必要

  • 認知症ケアに関することを職員間で伝達や指導するための会議を定期的に実施している

介護施設としてレスパイトケアにどう取り組むか

レスパイトケアが広がっていくためには、介護施設側からの取り組みも重要です。現在、介護施設と在宅ケアマネジャーの間には、レスパイトケアに関する認識のずれが生じています。認識のずれをなくすためには、介護施設は次の項目について積極的に取り組むことが大切です。

  • 予約を取りやすくする

現在、ショートステイ受け入れ先の施設では「平日のみ・電話での予約受付」が主流です。しかし、それでは予約が取りづらいとの意見も多く、今後はネット予約など時間や曜日を選ばない予約システムの利用が望まれています。

  • 関係各所との密な情報交換

在宅介護の基本は「切れ間ない支援」です。ショートステイ利用時の様子や帰った後の様子など、関係各所が密に情報交換を行うことで、介護者は安心してレスパイトケアを受けることができます。介護施設には、どんな小さなことでも情報提供するという姿勢が求められます。

  • 医療依存度の高い利用者や重度認知症の利用者の積極的な受け入れ

医療依存の高い利用者や周辺症状がある重度認知症の利用者は、ショートステイの受け入れを断られてしまいがちです。しかし、このような人ほど介護者のレスパイトケアは必要であることから、介護施設は医療依存度の高い利用者や重度認知症の人でも受け入れ可能な体制を整える必要があります。

  • 積極的な自立重度化予防に取り組む

ショートステイを利用したことで心身の機能が落ちると、在宅に戻ったときの介護量が増してしまいます。介護施設は、ショートステイ中でも自立重度化予防が図れるよう、リハビリ機能や余暇活動を充実するなどの工夫が求められます。

気軽にレスパイトケアを活用できる環境づくりが急務

レスパイトケアへの取り組みは少しずつ広がりを見せています。しかし、レスパイトケアへの理解はまだ進んでいるとはいえないのが現状です。介護施設側からレスパイトケアの重要性や施設での取り組みを積極的に発信するなど、介護者が使いやすい雰囲気を作ることが今後求められるのではないでしょうか。

 

参考:

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