「こだわり力」がキーワード?介護の質を高めるユニークな取り組み事例集

後期高齢者の圧倒的な増加によってマーケットニーズがますます拡大する一方で、ニーズ多様化にも対応を迫られる介護サービス業界。さまざまな業態で介護関連施設や事業所が林立するなか、いかに個々のサービスの質を向上させていくかという点で、企業力が問題になりつつあります。このような時代を生き抜くヒントとして、ユニークなこだわりの取り組みで注目を浴び、急成長している介護施設や事業所を特別養護老人ホーム、小規模多機能居宅介護事業所、訪問介護事業所、グループホームと業態別に紹介します。

 

特別養護老人ホーム:施設内に昭和横丁を再現、回想法で認知症予防改善

愛知県の社会福祉法人昭徳会が運営する特別養護老人ホーム高浜安立荘(たかはまあんりゅうそう)では、さまざまなユニークな取り組みが行われています。まず、ケアの3原則を独自に設定しました。

  1. 利用者を寝たきりにしないケアを行う
  2. 利用者の生活習慣を大切にする
  3. 利用者の個性や主体性を引き出すケアを行う

これらの原則に沿って、常食の摂取、下剤の不使用、施設内の運動、歩行の推進、おむつはずし(できるかぎりトイレでの排泄を推進)など、利用者の自立支援、残存機能の積極的な活用、向上にこだわった介護に積極的に取り組んでいます。

おむつはずし、トイレ排泄の積極的な誘導といったケアは、スタッフの労力負担がかなり増しますが、スタッフの配置に工夫をして、確実に効果を上げています。

また、施設内に映画のセットのように「昭和横丁」を開設。昭和10~20年代の生活空間を再現したちゃぶ台のある茶の間、洗濯板のある流し、富士山の壁画のある浴室などを配しました。昭和横丁の一角では、なつかしい写真、イラストなどをパソコン画面で見ながら行う、パソコン回想法による認知症治療を実施しています。パソコン回想法に用いられる画像は、350~500あまりの昭和の生活シーンから成り立っており、「自発的な対話の増加」、「具体的でなおかつ連想の多い回想」、「会話の質の向上」などの効果が確認されています。

 

「お客様の希望をカタチに」を全スタッフが徹底する小多機

横浜市神奈川区を中心に小規模多機能型居宅介護事業所「ぼやあ樹」を6施設運営する株式会社シェルパは、各事業所内に専任のケアマネージャーと看護師を配置。デイサービス、ショートステイ、訪問介護などの介護サービスを複合的に行える小規模多機能介護の特徴を最大限生かしたサービスで急速に成長中です。

介護保険を基盤とする介護事業では、介護する側の「できること」「できないこと」を利用者に押しつけがちですが、ぼやあ樹では「絶対に利用者の希望を断らない」を徹底しています。これは、創業社長の石川洋一氏が看取りケアで500人以上とかかわってきた経験から生まれた企業理念。世界的に主流になりつつある、認知症のパーソンセンタードケアのコンセプトである「くつろぎ」、「共にあること」、「自分らしさ」、「結びつくこと」、「たずさわること」にも重なります。

どんな細かいことでもそれが利用者の希望、要望、夢であれば、寄り添って実現へ働きかけ、制度やシステムはあとから当てはめていけばよいとしています。その理念は、社員研修やマニュアルなどのスタッフ教育により、全スタッフに浸透しています。

さらに、介護スタッフ個々の質の向上にも取り組んでおり、利用者本人や家族、地域包括支援センターなどの行政サイドから高い評価を得ています。

 

訪問介護事業所 :入力するとヘルパーにインセンティブが派生、新しいICTシステム構築

在宅介護サービスを提供する、やさしい手 学芸大学店(東京都目黒区)では、汎用のスマートフォンやパソコンからログインして使える、訪問介護ヘルパー員向けの情報記録ツールを独自に構築しました。

事業所ごとの業務情報に、各自が使い慣れた私物のスマートフォンやノートパソコンからシステムにアクセスし、更新ができます。また、情報更新だけではなく、1件の訪問介護記録を入力するたびに手当が派生して支払われる仕組みにしたのです。

このインセンティブ派生により、各ヘルパーが積極的に情報を入力するようになり、サービス提供責任者の負担も大幅に軽減しました。会社全体でウィンウィンの業務メリットが生まれています。同時に、ヘルパーのスケジュール管理や連絡、ヘルパーへの業務指示や新規依頼案件なども効率化され、利用者へのサービス向上を実現しています。

 

垣根を取り払った、地域と共存共栄するひらかれたグループホーム

社会福祉法人仙台市社会事業協会が運営する仙台楽生園ユニットケア施設群では、大規模多機能を生かし、たくさんの市民が利用する総合福祉施設内においてグループホーム楽庵を開所しています。コンセプトは地域密着型運営。

施設内に設けられた葉山地域交流プラザには、 発表会に利用できるステージ、カフェレストラン、売店、プレイルームや、絵本や紙芝居などがそろった図書室、理美容室、介護予防のためのリハビリセンター、ボランティアのための活動センター、誰でも利用できる展望露天風呂まで備えられており、地域住民と利用者の交流を実現しています。

また、2014年には「オレンジカフェ(認知症カフェ)」も開設。グループホーム楽庵の運営でつちかわれてきたケアのノウハウが生かされ、外部から訪れる在宅の認知症高齢者や家族を支える大切な交流の場にもなっています。

 

発想とアイデアを「こだわり力」で形に

生き残っていくためにも、これからの介護施設運営には発想力や個性、実現力が求められる時代です。自由な発想とアイデアで施設をプロデュースし、ICT導入や地域との融合、連携などを積極的に図っていくことが重要です。これからは、ユニークな運営理念を確実に形にしていくという「こだわり力」が鍵になっていくかもしれません。

 

参考:

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